蘭学事始 (講談社学術文庫)

  • 講談社 (2000年1月7日発売)
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本棚登録 : 135
感想 : 18
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司馬の『胡蝶の夢』と手塚の『陽だまりの樹』を読んで以来、市井の人々の近代の受容というテーマに大変興味を持っていた。白石の『西洋紀聞』もそうだが、文化と文化の出会いと、それが起こす価値転倒はいつでもドラマティックだ。
それで、先に菊池寛の『蘭学事始』を読み原著に当たりたくなった。現代のようなドラマ性をもたせたものでなく、淡々と事実を執筆しているが(そもそも本著の目的は蘭学の起こりを正確に残しておくことだった)、未知のオランダ語の世界を丸裸で探検する青年たちの艱難辛苦と、不気味な記号が徐々に色を帯びて、大きなおおきな絵画となる、その時の喜びは十分に伝わる。これは『福翁自伝』『まんが道』と並ぶ青春自伝文学だ。やる気がみなぎる! 
ところで、福沢によれば『蘭学事始』は焼失し、多くの洋学者の悲しむところとなった。ところが、ある学者が偶然に露天で売られている写本を発見。急いでそれを写し、さ らに明治になって福沢が出版。こうして奇跡的に現代に伝わることになった。逆に、歴史から消えてしまった良書もたくさんあるんだろう。
中央公論の日本の名著22にて読む。他にも司馬江漢や平賀源内の著作も収蔵。平賀源内の筒井康隆的な発想、センスには驚いた。個別で読んでみよう。現代語訳されていることが唯一残念だった。江戸時代なんだから、そのままでいいだろうに。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年3月15日
読了日 : 2012年10月2日
本棚登録日 : 2022年3月15日

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