壬生義士伝 上 (文春文庫 あ 39-2)

著者 :
  • 文藝春秋 (2002年9月3日発売)
4.20
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本棚登録 : 7844
感想 : 805
5

これは、間違いなく、面白いんだろうなあ、、、と思いつつ、かなり長い間、何故かこう、手を出さなかった本なのですが、遂に読みました。で、で。これは、間違いなく、面白いんだろうなあ、と思っていたのですが、いやもうね、読んでみたら、ホンマに面白い!という素晴らしさよ。大満足の上巻です。いやもう、流石サスガの浅田次郎。お見事です。

新選組のメンバーの中で、知っていたのは、芹沢鴨、近藤勇、土方歳三、沖田総司、斎藤一、というあたり、という、抜群に薄い知識でゴメンナサイ、、、という、まあ、物凄く詳しくない、という程度の知識の持ち主です。新選組が、具体的に、あの明治維新の時代のあたり?で、どのような役割を果たした組織だったのか?ということも、本当に詳しく知らない、というレベルの、読んでいいのか?ゴメンナサイ、、、という程度の知識で、読み始めました。

で、当然、この話の主人公である?と思われる、吉村貫一郎、全く知りませんでした。いやもう、全く知りませんでした。まことに申し訳ない、、、というところですね。

話としては、そらもう、浅田次郎節全開、といいますか、こうね、めちゃくちゃアツいですね。浅田次郎さん、好きなんですよ。人として、どうしても、好きですね。特にエッセイが好きなんですが、勇気凛々ルリの色、とか、もう大好きなんです。

あと、この小説、読み始めるまでは、「新選組の、凄い有名な王道中の王道の隊士ではない人物が主人公の作品らしい」ということは、ぼんやりと知っていたのです。

で、読み始めたら、吉村貫一郎、という人が登場するし、彼の人生を彼の目線で述べる?物語なのだろうなあ、と思っていたのですが、いきなり、なんといいますか、吉村貫一郎本人の語り言葉の部分もありつつ。大部分は、当時のリアルタイムの時代から大分時間がたった時に、当時を知る人々が、彼のことを語る、というスタイルの小説、という事がわかって、ビックリしました。

おお、こういうスタイルの小説なのか、と。驚きました。なんとなく、山田宗樹さんの小説「嫌われ松子の一生」的なスタイル?という感じを受けましたが、あの小説を読んだのが、既に大分昔なので、もしかしたら、違うかもしれない、、、小説のスタイル、違ってたら、すみませんです。

それにしても、浅田次郎さんは、人を描く!という思い入れの感じ、凄く強いなあ、って思います。漫画家としては、藤田和日郎さんっぽいなあ、とか思ったりもしました。アレですね。何しろ、熱い!という点が。いやあ、もう、好きなんですよねえ。「俺は何としてもこう書きたいの!こう伝えたいの!」ってのが、ヒシヒシとあふれ出ている感じ、と申しましょうか。うーん、いいんだよなあ。

吉村貫一郎がしゃべる、盛岡弁?なのですかね?これの再現度とか、かなり、凄く、完璧なのではないでしょうか?自分は、盛岡育ちではないので、どこまでホンマに完璧か?というのは分かりかねるのですが、読んでいて、正直、盛岡弁の意味合いがわからない部分はところどころあれど、それを含めても、とても気持ちよく読むことができました。いわゆる、方言、ですよね。日本語の方言の美しさは、バシバシと感じました。こういうの、凄く好きなんです。

町田康さんの「告白」も、河内弁、という、いわゆる大阪の方言?で書かれた小説だったのですが、あれも、すっごく読んでいて、しっくりくる、というか、読んでいるだけでこう、グッとくる文章だったんですよね。方言って、凄いなあ、って思う。めちゃくちゃこう、日本語の美しさを、感じさせてくれる、とかね、思うんですよ。

こういう、標準語でない文章の美しさが満ち満ちている日本語の小説って、他の言語に翻訳して小説化すること、できるんか?って凄く思う。この文章の、なんらかの奇跡的な美しさ。物語の美しさ、ではなく、単純に文章の文体の言語の美しさ。それを多言語に翻訳することは、可能なのや否や?うーむ、、、気になる。言語って、そして言語の壁、って、凄いな、って思いますね。

あと、この上巻で、一番、印象深かった場面。
それは、吉村貫一郎が、介錯を務めようとして、そこで本人が切腹から逃げようとして、やむを得ず切り殺してしまった場面。あっこが、ホンマに印象に残りました。切り殺したの身体を、斎藤一が、その切り口を、じっくり観察していたやないですか。あっこがホンマに、なんというか、ゾッとしたし、腑に落ちました。ああ、本当の人斬りの人々は、同じ人斬り仲間の凄腕の人物の腕前を、とくと観察したいのだなあ、、、という。

それは、とある一流の料理人が、別の一流の料理人の包丁さばきを、しっかと観察するようなものですよね。他の料理人が、どのように魚の、牛の、鶏の肉を切るのか?野菜を切るのか?とある一流の樵が、他の一流の樵の、木の伐り方を、じっくりと観察するようなものですよね?どれほどに見事に、切るのか。斬るのか。伐るのか。それを、しっかりと、観察する。一流の人斬りは、他の一流の人斬りが斬った、人間の死体の斬り口を、しっかりと、観察するのだ、、、という、いわば一流の世界の当然の行為?というものを、まざまざと感じた、この描写。浅田次郎、恐るべし。そして、お見事すぎる、、、と、脱帽しました。この場面で。

あと、最初の方に登場する、飲み屋の主人。元、新選組の隊士だった人物が、生き延びて、自分の正体を隠して、飲み屋をされてるやないですか。あの親父さんの、明大の野球部が贔屓のくだりの話。すげえグッときました。沖田や斎藤が、生まれ変わって野球部の部員になっている、みたいな話。ああ、これが、どうしても忘れられない、青春、ってヤツなんだなあ。って。あの話が、めちゃんこ好きです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年2月16日
読了日 : 2020年2月16日
本棚登録日 : 2020年2月16日

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