ほんとはこわい「やさしさ社会」 (ちくまプリマー新書 74)

著者 :
  • 筑摩書房 (2008年1月1日発売)
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治療としてのやさしさ・予防としてのやさしさ

治療としてのやさしさは、たとえば、将来苦労しないように今は少し厳しくするという、少し昔のタイプのやさしさ。一方、現代的なやさしさは、今相手を傷つけないように努力べきというように考える。

この現代の「やさしさ」は伝わりづらい。なぜなら、現代的な「やさしさ」つまり、予防的やさしさは「~しない」という形を取ることが多いからだ。

予防としてのやさしさの例として、本書には電車内で寝たふりをする女の子の例が載っている。


”電車でお年寄りに席をゆずろうと思ったけれども、気分を害するかもしれないと考え、あえて席を譲らない。黙っていればすべて良いというわけではないということは自分にもわかっているが、相手のことを考えるとつい黙ってしまう。自分にとって黙っていることは相手に対する見えない優しさだと考えている。”


私自身、そういうところがある。電車内で少し離れた席の女性がかばんの中のものをばらまいてしまった際に、「あ、拾ってあげようかな。でも、そうやって注目されるのを恥ずかしいことだと思って嫌がるかもしれない」と考え、つい見てない振りをしてしまったことがあった。おそらく誰にでも似たようなことはあるだろう。

こうした現代的やさしさには「今」を大事にしたいという
考え方が根本にあるという。「今」気分を害さないように席を譲らなかったり、「今」恥ずかしがらせないように、見ていないふりをしたり。

予防的やさしさのすべてがなくなれば良いとは思わないが、電車内で席を譲ったりという相手を思いやってした行動がすべて否定されてしまうような社会は生きづらいものだ。

時にはつらいこともあるよ、ということを受け入れられなければ、こうした伝わりづらいやさしさは変わらないのだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会学
感想投稿日 : 2012年7月3日
読了日 : 2012年7月2日
本棚登録日 : 2012年6月23日

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