ほんとはこわい「やさしさ社会」 (ちくまプリマー新書 74)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (175ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480687753

作品紹介・あらすじ

「やさしさ」「楽しさ」が無条件に善いとされ、人間関係のルールである現代社会。それがもたらす「しんどさ」「こわさ」をなくし、もっと気楽に生きるための智恵を探る。

感想・レビュー・書評

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  • 現代の人間関係が冷たく感じる社会の性質と成り立ちを分かりやすく解説している本。
    なぜこんなに窮屈な感じがするのか。見知らぬ相手を注意することはなぜいけないのか。そんな疑問が氷解していく。
    また著者の考察が深く鋭い。示唆に富み、多くの気づきを与えてくれる。例えば人生の自己目的化について。昔は人生の目的は家であったり国であったりした。しかし太平洋戦争後には人生は自分の為に生きるのが普通になった。偉いのは個人。人格が崇拝された。するとその神聖な人格を傷つけることはタブーとなる。それを破って注意すると、された方は神聖な人格を傷つけられたとして逆上する。などなどなるほどと思う。
    ただし、具体的な解決策は書かれていない。が、楽しさ至上主義を改めた方が良いという。常に楽しさばかり追い求めると苦しいし焦る。それがこの窮屈な社会を生み出す原因の1つだと。
    この社会は何となく生きにくいなと思っている方にオススメです。

  • わかりやすく、すごく納得。
    今重視の優しさと、後先を見た厳しさが丁重に説明されていて、考えの幅が広がった感じです。

  • 治療としてのやさしさ・予防としてのやさしさ

    治療としてのやさしさは、たとえば、将来苦労しないように今は少し厳しくするという、少し昔のタイプのやさしさ。一方、現代的なやさしさは、今相手を傷つけないように努力べきというように考える。

    この現代の「やさしさ」は伝わりづらい。なぜなら、現代的な「やさしさ」つまり、予防的やさしさは「~しない」という形を取ることが多いからだ。

    予防としてのやさしさの例として、本書には電車内で寝たふりをする女の子の例が載っている。


    ”電車でお年寄りに席をゆずろうと思ったけれども、気分を害するかもしれないと考え、あえて席を譲らない。黙っていればすべて良いというわけではないということは自分にもわかっているが、相手のことを考えるとつい黙ってしまう。自分にとって黙っていることは相手に対する見えない優しさだと考えている。”


    私自身、そういうところがある。電車内で少し離れた席の女性がかばんの中のものをばらまいてしまった際に、「あ、拾ってあげようかな。でも、そうやって注目されるのを恥ずかしいことだと思って嫌がるかもしれない」と考え、つい見てない振りをしてしまったことがあった。おそらく誰にでも似たようなことはあるだろう。

    こうした現代的やさしさには「今」を大事にしたいという
    考え方が根本にあるという。「今」気分を害さないように席を譲らなかったり、「今」恥ずかしがらせないように、見ていないふりをしたり。

    予防的やさしさのすべてがなくなれば良いとは思わないが、電車内で席を譲ったりという相手を思いやってした行動がすべて否定されてしまうような社会は生きづらいものだ。

    時にはつらいこともあるよ、ということを受け入れられなければ、こうした伝わりづらいやさしさは変わらないのだろうか。

  • 教材研究用

  • 「人生は楽しくなければだめ、楽しむべきだ」この考えが、メディアによって私自身に刷り込まれているのかもしれないと感じた(メディアのせいにしてみたり)。この思想が、非現実的であることに気づこう。子育ても同様、ただ楽しいことばかり、楽しいものでなければならないと信じていると、虐待につながる可能性あり。

    「謝るぐらいなら、最初からあんなことするな!」なんて、ほんの拍子でも絶対言ってはいけないと思った。
    「対等性の原則」とは、読んでいて、なんとあほらしいことかと思ってしまった。

    治療的やさしさ(やさしいきびしさ): 傷はいつかは治るもの
    予防的やさしさ(きびしいやさしさ): 傷はいつまでたっても傷のまま残る

    「謝ること」も、とても大事。それ以上に「許す」ことが大事。
    「はれもの」扱いなんてまちがっとる!これは、ただの自己保身でないのか?神経がすり減るだけで、相手のためにも、自分のためにもならない。

  • p.16やさしいきびしさ「愛のムチ」
    p.18きびしいやさしさ「謝るぐらいなら、最初からあんなことをするな!」

    p.20治療としてのやさしさ 注意して治す
      予防としてのやさしさ 注意しない
    →人に恥をかかせないのが「やさしさ」現代

  • 時代が変わり自己実現を重視するよう、生き方が変わってきた。しかし、①楽しまなければならない、②能力を発揮したい、という感覚が、自滅になっているという感覚は感じる。「楽しくないとだめ」は本当にどうしようもない結果をもたらしてしまうという感覚もある。本当に今はなぜか不思議なくらい、ぎりぎりのところに立ちたがると思う。読み終えたばかりなので、後日にまとめることにする。

  • とくりふ読書会課題図書

    いやー社会学面白い
    そして今の人間関係の関心ごとにぴったり

    「なんで日本人ってこうも残念なのだろう」という長年の疑問がまた一つ納得できた。
    そして、うまい具合にやさしさを使えるようになろうとも考えられた。

    国木田さん、ありがとう!
    来週楽しみ

  • やさしい本。
    もっとザクザク、社会への批判が書かれているかと思ったらそうでなかった。

  • 2008年の本。当時の他人に厳しい怖い社会
    のことを書いたものだけど、2020年に読むと、今現在、ますます怖さが増した感がありますね。今は人権に配慮っつう政治的な正しさをもった優しさがトッピングされましたからね。勿論、人権意識が低いのは問題なんだけど、本来ならもっと前からちゃんとしとくものでしょ。怖い時代になってから人権問題なのか、自己崇拝は政治に目覚めたんかーとしみじみ思ったわ。現代人は自己目的化に生きる意味を見出す剥き出しの脆弱な個っつことなら当然の帰結か。

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著者プロフィール

1962年、兵庫県神戸市生まれ。

神戸市外国語大学卒業後、関西学院大学社会学部卒業。同大学院社会学研究科博士課程修了。

博士(社会学)。

現在、皇學館大学文学部コミュニケーション学科教授。

専門は理論社会学、現代社会論、消費社会論。

現在は哲学を勉強中。

著書に『「お客様」がやかましい』『ほんとはこわい「やさしさ社会」』(以上、ちくまプリマー新書)、
『自己コントロールの檻―感情マネジメント社会の現実』(講談社選書メチエ)、
『日本はなぜ諍いの多い国になったのか―「マナー神経症」の時代』(中公新書ラクレ)、『かまわれたい人々』(中経出版)。

共著に『変身の社会学』、共訳に『自己論を学ぶ人のために』(以上、世界思潮社)
などがある。

(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


「2012年 『どうしてこの国は「無言社会」となったのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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