学生時代に読んだと思うがあまり覚えておらず再読です。
今読んでもハードな内容だったので当時、もしかしたら最後まで読めてなかったかもと思いました。
「はしがき」と「あとがき」の間に主人公の葉蔵を写した三枚の写真の頃についての葉蔵の手記がある形式の物語。
「恥の多い生涯を送ってきました」から始まる手記には、少年時代から家族や周りの人に対してさえ怖ろしさを感じ、おどけてみせて過ごすしかできなかった葉蔵。
そうして成長してさらに、次々と陰惨な状態に陥る半生が克明に描かれてます。
主人公の葉蔵というキャラクターは、太宰自身を投影してるようでした。
この集英社文庫にはなんと、太宰治の娘さんの解説が巻末にありました。
太宰治の奥様ではなくて太田静子さんとの間の娘さん(1947年生まれの作家さん)の太田治子さんです。
この作品を通して父親についての思いや感想が綴られていて、読んでいてそれが胸にぐっときてしまいました。
例えば、小説での葉蔵の写真が醜く笑っていると描かれているところが娘の自分としてはおおいに不満だったとか、「空腹という感覚がサッパリわからなかった…」という作中の部分は信じられなくて腹がたったりしたとか。
それは太宰治はウナギが大好物だと、母から聞かされていたので、食べることに関心がない筈が無いのに大袈裟な強がりだな、と…。
それから作中のシズ子とその娘のシゲ子が白兎の子と遊ぶ姿をドアの向こうから、のぞきながら葉蔵が思うシーンが好きだとのこと。
(幸福なんだ、この人たちは。自分という馬鹿者が、この二人のあいだに入って、今に二人を滅茶苦茶にするのだ。つつましい幸福。いい親子。この幸福を、ああ、もし神様が、自分のような者の祈りでも聞いてくれるなら、いちどだけ、生涯にいちどだけでいい、祈る)
そして最後には…
太宰治の『人間失格』は何よりも私に「父性」について教えてくれた作品ですと、締められていました…
- 感想投稿日 : 2023年11月21日
- 読了日 : 2023年11月21日
- 本棚登録日 : 2023年11月21日
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