新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1989年6月19日発売)
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表題作【銀河鉄道の夜】
ちゃんと読めておらず、ずっと読んでみたいと思っていた不朽の名作。
ブク友の皆様のレビューを読んで、やっと今回手に取ることができました。ありがとうございます。

ちょうど今から90年前、37歳の若さでこの世を去ってしまった宮沢賢治。
この作品は賢治が亡くなる直前まで、何度も書き直し惜しくも未完成でした。
未完成でも人気の高い素晴らしい作品であり、世に出してもらって読めたことに、感謝したい気持ちです。

人間の生と死、友情の大切さ、いじめやヤングケアラー、また、本当の幸いとは?、自己犠牲について、そんな様々な内容が盛り込まれていて、考えさせられました。

調べてみたら、
賢治は法華経を信仰している上に、この作品ではキリスト教の要素も加えた宗教についてや、そして哲学や天文科学、そして鉱物にも動植物にも詳しい人でした。
また、賢治にはトシという妹がいて、早くに亡くなってしまい本当に悲しんでいて、その思いがこの作品にも込められているといわれている、ということも知りました。

○主な登場人物
〈ジョバンニ〉主人公の小学生。家が貧しくて朝は新聞配達、学校帰りにも活版所で働く健気な少年。いじめられっ子で孤独
〈母〉病気で寝込んでいる。優しい母
〈父〉遠くの海ヘ漁に出かけたまま帰ってこない
密漁で監獄に入っているという噂がある
〈カムパネルラ〉家に行って遊ぶこともあった幼馴染の親友だが、最近はあまり話さなくなっている少年
〈ザネリ〉クラスメイトでいじめっ子

○あらすじ
ジョバンニは、教室で銀河系や天の川の授業を受けたあと、夜のお祭りに出かけるが、丘の上で一人寂しく星空を眺めていた。すると不思議な事にいつの間にか、明るい光が差し宇宙を旅する銀河鉄道に乗っていた。向かいの席にはいつの間にか親友のカムパネルラもいることに気が付き、暗かった気持ちが明るく嬉しさでいっぱいになる。そして、銀河幻想の煌めく美しい景色の中、面白くて驚くような不思議な出来事や乗客との交流の旅が始まった。
カムパネルラとずっと、どこまでも乗って行きたいと願っているジョバンニでしたが……。

作品としては主人公のたった一日の物語。
序盤では、少年の現実生活での暗い労苦描写があり、読んでいて辛くなるのですが、それが一変して夢のように煌めく美しい不思議な銀河旅行へと続いていきワクワクします。
電車内での奇想天外なエピソードを重ねていく中で、カムパネルラの台詞のいくつかや乗客の事、星座の事などの細かい部分が読んでいても、その時は理解できなく謎のままですが、読み終わってから気づかされたり考えさせられたりして、いろいろとリンクしていて構成の巧みさを感じられます。

また、鉄道の中からみる景色の絵画的で、読んでいて魅了させられる美しさ。
読者の、視覚や聴覚や嗅覚、味覚などを刺激する描写が素晴らしいの一言。
・一面の銀色に光るすすきは風にさらさら揺られ波のよう…
・紫に光って通り過ぎていく一面のりんどうの花…
・野原に大きな真っ赤な火が燃やされその黒い煙は高              くあがり、桔梗色の冷たそうな空をも焦がしそう…
・河原の小石はみんな透き通っていて水晶や黄玉。中で小さな火が煌めいている…
・「新世界交響楽」が遠く遠く野原の果てから、かすかなかすかな旋律が糸のように流れてくる…
など…ちょっとここに書ききれない程。
 
そんな風に銀河の景色は美しいのですが、この作品の最後は、明るくもなく、ハッピーエンドでもない、哀しい、切ない、展開が待っています。

でも、ジョバンニが大好きなカムパネルラと最後に、この銀河鉄道の旅をしたことで、力が湧くような気持ちを持てたというラストなのだから良かったんだ…とそれは救われる思いもしました。
「カムパネルラ、僕たちしっかりやろうねえ」
と電車の中で固い約束を交わしたのですから…。

素晴らしい作品でした。
また時折、読み返したいなと考えています。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年7月31日
読了日 : 2023年7月20日
本棚登録日 : 2023年7月20日

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