ぼくの大好きな青髭 (新潮文庫 し 73-4)

著者 :
  • 新潮社 (2012年5月28日発売)
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本棚登録 : 164
感想 : 13
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「さよなら怪傑黒頭巾」の話の中で、薫君はお兄さんのお友達である山中さんの結婚披露宴に出席する。山中さんは東大医学部の出身で、学生時代には活動家としてならしたけれども、結局は、学会で有力な教授のお嬢さん(だっけ?)と結婚することになる、という設定で、それが非常に微妙なことであるために、披露宴自体が何だかおかしな雰囲気になる。あるいは、物語の最後の方に出てくる、新進の政治学者の中村さんは、1969年という大事な時期(1970年安保闘争を控えた大事な時期、ということだと理解したが)に海外留学することになり、皆の期待を裏切ってしまうことを気にして、薫君の家でしたたかに酔っ払ってしまうことになる。
これらは、本の中で非常に大事な位置づけのエピソードなのだけれども、こういったエピソードは、当時の時代背景や雰囲気を知らなければ、その意味が分からないだろう、と思う。
言いたいのは、「赤」「白」は、薫君の個人的な体験の物語として読めるけれども、「黒」「青」については、そういった読み方が出来ず、当時の時代背景や雰囲気が分からないと、理解することすら難しいのではないだろうか、ということだ。

もう少し身も蓋もないことを言えば、たとえ、当時のそういった運動や活動といったものに対して知識として分かったとしても、今の時代から考えて、意味を見出せるだろうか、ということも疑問として湧いてくる。
山中さんや中村さんが一生懸命に頑張って目指していたことは、そもそも本当に意味があったことなのだろうか、という疑問だ。
もし、それが今から考えると、あまり意味のないことであったと考えるのであれば、山中さんや中村さんの苦悩や挫折の重みが理解出来ず、それが理解出来ないのであれば、物語自体が理解出来ない、というか、成立しない。少なくとも、4部作が発行された当時に読まれたような読まれ方では、これらの物語が読まれることは難しい、というか、無理だろうと思う。何のために頑張っていたのか、が理解されなければ、その挫折がどういう意味を持つのかを理解するのは難しいだろうから。

こういったことが、庄司薫の4部作をあらためて読んでみた時の、全体的な感想だ。
若い頃に夢中になって読んだという記憶があり、それに対しての懐かしさから今回も一気に読んだけれども、残念ながら (特に黒と青は)、発行された当時に僕が今の年齢であれば、読んでいないかもしれない。少なくとも、楽しめはしなかったような気がする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2012年 1st Halfの読書ノート
感想投稿日 : 2012年6月7日
読了日 : 2012年6月7日
本棚登録日 : 2012年6月7日

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コメント 2件

jyunko6822さんのコメント
2012/07/06

私は当時、「赤」「白」に続いて勢いで(惰性で)「黒」「青」も読んだのですが、今となっては大人目線で薫クンを慈しめちゃいます。
若い時はミンナ傷つきやすかったんです。

sagami246さんのコメント
2012/07/06

コメントありがとうございます。
「若い時はミンナ傷つきやすかったんです」
そうなんですよね、それが若い頃の悩みのタネで、かつ、今になってみないと分からないのが、更につらいところですよね。

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