紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている

著者 :
  • 早川書房 (2014年6月20日発売)
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感想 : 362
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本書の副題は「再生・日本製紙石巻工場」だ。2011年3月11日の東北大震災の際の津波により、石巻湾近くに位置していた日本製紙石巻工場は壊滅的と思えるような被害を受ける。本書は、震災直後の工場・工場の人々の様子から、工場の復興までを記録したノンフィクションである。

2011年の東北大震災の時、私はバンコクで勤務していた。出張で行っていた訳ではない。2008年に赴任してから、現地の会社に駐在員として勤務していた。地震が起こったのは、日本時間で14時46分。タイは日本の2時間遅れの時差があり、地震が起きた時にはタイは12時46分、ちょうど昼休みも終わり近くになった時間帯だった。タイの現地のスタッフが、昼休みが終わろうとする頃、日本で大きな地震があったことをネットのニュースで見て私に教えてくれた。私もネットで調べてはみたが、あまり詳しい情報を得ることは出来ずにいた。それからしばらくして、ネット、タイのテレビニュースでとんでもない映像が流れ始めた。津波が東北地方の太平洋岸を襲い始めたのである。とても衝撃的な映像であった。
震災から2年経過した2013年に駐在が終わり、帰国した。帰国してほどなく、石巻にある私の勤務する会社の関係会社の工場を見せてもらいに出張に出かけた。その工場自体は、高台にあり直接津波の被害を受けることはなかったのであるが、お会いした方に震災時の様子を伺い衝撃を受けた。工場視察後、工場の方が市内を案内してくれた。本書にも登場する日和山から石巻湾方面の光景は忘れられない。その後、日本製紙の工場あたりや市街地を案内してもらい、2年経過した時点であったにも関わらずショックを受けた。そういった大変な状況の中で工場復興のために尽力された、本書に登場される方々には本当に頭が下がる思いがした。
本書の話に迫力とリアリティを与えているのは、あまり描かれることのない、震災と津波による被害の悲惨な側面をリアルに書いていることだ。それは、死体・遺体の様子であったり、人が死んでいくのを黙って見ているしかなかった生存者の回想であったり、震災後の治安の悪さであったりというようなことだ。読みながら胸がふさがれる思いを味わった、と同時に、この工場の復興がどのくらいすごいことなのかを感じることが出来た。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年4月2日
読了日 : 2022年4月2日
本棚登録日 : 2022年4月2日

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コメント 2件

かなさんのコメント
2023/08/25

sagami246さん、遅い時間にすみません…。
こんばんは!初めまして。
この度はフォローしていただきましてありがとうございます。
こちらからもフォローさせていただきますので
どうぞよろしくお願いします。

sagami246さんはたくさんの本を読まれていますね。
私とは異なる分野の作品もたくさん読まれていて
興味深く、本棚拝見しました。
でも、同じ作品もありました!
佐々涼子さんの作品は私も読んでいます。
中でも、この作品は胸が熱くなりました。
ホント、紙の本が読めることに感謝しました。

ちなみに私、震災の時は、美容院にいました。
周り一面が鏡やガラスなので、怖かったですけど、
大きな被害はない地域でしたので…
ただその後被災者さんとかかわる機会はありました。
何年たっても心の傷は癒えないものですね。

sagami246さんのコメント
2023/12/11

かなさん、おはようございます。
コメントをいただきながら、見落としていたようで、大変失礼致しました。
好きな分野は異なるようですが、お互い読書好き、引き続き、よろしくお願い致します。
私は日本を離れていたのですが、私の息子2人は震源から遠い東京にいたということでしたが、それでも、電車が止まったりして大変だったと言っていました。もう10年以上が経過しますが、被害に遭われた方は大変だったかと思います。

コメント、ありがとうございました。

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