本書の副題は「再生・日本製紙石巻工場」だ。2011年3月11日の東北大震災の際の津波により、石巻湾近くに位置していた日本製紙石巻工場は壊滅的と思えるような被害を受ける。本書は、震災直後の工場・工場の人々の様子から、工場の復興までを記録したノンフィクションである。
2011年の東北大震災の時、私はバンコクで勤務していた。出張で行っていた訳ではない。2008年に赴任してから、現地の会社に駐在員として勤務していた。地震が起こったのは、日本時間で14時46分。タイは日本の2時間遅れの時差があり、地震が起きた時にはタイは12時46分、ちょうど昼休みも終わり近くになった時間帯だった。タイの現地のスタッフが、昼休みが終わろうとする頃、日本で大きな地震があったことをネットのニュースで見て私に教えてくれた。私もネットで調べてはみたが、あまり詳しい情報を得ることは出来ずにいた。それからしばらくして、ネット、タイのテレビニュースでとんでもない映像が流れ始めた。津波が東北地方の太平洋岸を襲い始めたのである。とても衝撃的な映像であった。
震災から2年経過した2013年に駐在が終わり、帰国した。帰国してほどなく、石巻にある私の勤務する会社の関係会社の工場を見せてもらいに出張に出かけた。その工場自体は、高台にあり直接津波の被害を受けることはなかったのであるが、お会いした方に震災時の様子を伺い衝撃を受けた。工場視察後、工場の方が市内を案内してくれた。本書にも登場する日和山から石巻湾方面の光景は忘れられない。その後、日本製紙の工場あたりや市街地を案内してもらい、2年経過した時点であったにも関わらずショックを受けた。そういった大変な状況の中で工場復興のために尽力された、本書に登場される方々には本当に頭が下がる思いがした。
本書の話に迫力とリアリティを与えているのは、あまり描かれることのない、震災と津波による被害の悲惨な側面をリアルに書いていることだ。それは、死体・遺体の様子であったり、人が死んでいくのを黙って見ているしかなかった生存者の回想であったり、震災後の治安の悪さであったりというようなことだ。読みながら胸がふさがれる思いを味わった、と同時に、この工場の復興がどのくらいすごいことなのかを感じることが出来た。
- 感想投稿日 : 2022年4月2日
- 読了日 : 2022年4月2日
- 本棚登録日 : 2022年4月2日
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