随分前に「生物と無生物のあいだ」を読んで以来の福岡本。
生物学者のエッセイ風読みものだが、とにかく文章が極上の作家並みに上手い。内容も相変わらず面白い。ロードムービーさながら場所と場面を変え、自然科学的切り口から日常の常識を覆し、読者の知らなかった真実を教えてくれる。作中にひとりの写真家が著者のところに来て自分の作品の言語化を依頼するという下りがあるが、確かに福岡氏の文章にはそういった圧倒的な力量とオリジナリティがある。
後半100ページほどはアメリカコーネル大学の名門研究室でのデータ捏造事件のドキュメンタリーが続く。この本の出版数年後に理化学研究所でSTAP事件が起こったのはなんとも予言的だ。
極上の小説を読んだような読後感。オススメです。
「不足と欠乏に対して適応してきた私たちの生理は過剰さに対して十分な準備がない。インシュリンは過剰に対して足るを知るための数少ない仕組みだった。それが損なわれたとき代わりの因子は用意されていなかった」
「生命現象において部分と呼ぶべきものはない。...全体は部分の総和以上の何ものかである」
「消化のほんとうの意義は...前の持ち主の情報を解体するため消化は行われる」
「細胞が行っているのは懸命な自転車操業なのだ。エントロピー増大の法則に先行して細胞内からエントロピーをくみ出しているのだ。あえて分解することによってエントロピー=無秩序が秩序の内部に蓄積されるのを防いでいるのである」
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
自然科学
- 感想投稿日 : 2023年3月1日
- 読了日 : 2023年3月1日
- 本棚登録日 : 2023年1月27日
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