「ドーナツを穴だけ残して食べるという方法」というお題に対して、大阪大学のさまざまな分野の教員がそれぞれの考えをつづった本。
そもそもこのお題自体がインターネット上ではすでに何度か「流行った」テーマであり、それに対して数多くのとんちの効いた答えがネット上でも見つけることができるという。
その事実を早くも本書の第0章で紹介したうえで、それでもこのテーマを各教員に問いかけることで、ドーナツという身近なトピックからどこまで様々な視点やアイデアが生まれるかということを感じてもらうことの大切さを提起している。
実際に、最初の方こそそれぞれの専門分野からひねり出した「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」が論じられているが、そこから先は、ドーナツという言葉に触発されたそれぞれの専門家が、その分野の研究成果を紹介したり、人間や社会のあり方を考えるきっかけになる話を語るという内容になっている。
ドーナツの穴を極力残す加工の方法を検討したり、数学的にドーナツの穴を残すというロジックを考察するといった取り組みは、一つのテーマを深く掘り下げて考えることの面白さを教えてくれる。
一方で、この設問を解くことではなく、この設問自体がわれわれに語りかけてくることとは何かを考えるといったスタンスもある。
例えば、この設問を契機に、ものごとをミクロに捉えることとマクロに捉えることの違いを検討したり、人間はこのような論理階型の誤りを含む問題を考えることで何を学ぶことができるのかといったテーマを論じた議論を読むと、このような不思議な問いを考えることこそ、われわれが常識やルーチン化した思考を乗り越えるきっかけを与えてくれるのではないかということに気づかされたりもする。
化学、法学、歴史学、機械工学、数学、美学、経済学など、文理にわたる幅広い学問分野がランダムに登場するので、本全体を通じてまとまりや構造のある話の展開ではないが、とにかくバラエティに富んでおり、またそれぞれの教員がなるべくわかりやすく自らの学問領域や考えを説明しようと知恵を絞ってくれているおかげで、それぞれの章を楽しみながら読むことができる。
知ることそのものの楽しさと、その先にある、ものごとを少し深く捉えてみることで得られる新しい発見の可能性を感じさせてくれる、面白い本だった。
- 感想投稿日 : 2021年7月28日
- 読了日 : 2014年10月15日
- 本棚登録日 : 2014年10月8日
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