影なき男 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 早川書房 (1991年9月1日発売)
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本棚登録 : 68
感想 : 7
4

まとめ買い第4弾。
レイモンドチャンドラーさんに影響を与えた作家さんだというので購入。
とても面白かった。

ニックは元私立探偵。ひょんなことからひと財産築いて悠々自適の生活を送っていた。
ある時、知り合いの変人発明家の秘書が殺される事件が起きる。その後様々な人物がニックに接近し、彼は否応なく事件に巻き込まれていくが…みたいな話。

この話ではいろいろな人がいろいろな嘘をついてるから、誰が本当のことを言っているのかわからくなって疑心暗鬼になる感じが面白かった。これが推理小説の醍醐味なのかもしれない。
特に嘘をつきまくるミミにはなんというか圧倒させられた。嘘を暴かれてもさらに嘘を重ね、それが暴かれてもまた新しい嘘をつき、それがえんえんと続いていく。嘘だとわかるのに、こちらが根負けして信じてしまいたくなっちゃう感じが面白かった。
主人公は「ミミの言葉を信じかけても」「人前では信じないことにしている」らしい。

ハメットさんは、いわゆるハードボイルドものの始祖みたいに言われている人らしい。確かに、元私立探偵のニックの言動や主観がほとんど描かれない文体は、明らかにチャンドラーさんにも影響を与えているように思う。そのままチャンドラーさんの小説に出てきそうな場面も多くあった気がするし。「情けない人生です。なんでこんなことにかかずりあっているのか、自分でもよくわかりません。」って刑事がぼやくところとか。

 ただチャンドラーさんよりはずっといわゆる推理小説に近かったと思う。チャンドラーさんはそれほど謎解きを重視してないように思えるけど、この小説は最終章で主人公が妻に向けて語る形で種明かしがされていた。丁寧だ。
 解説によると、この小説はハメットさんの最後の探偵ものになる予定だったけど、結局最後の小説になったらしい。最終章を読んでると、なげやりというか不思議なあきらめのような雰囲気が漂っていたように感じたから、なんとく「なるほど」と思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2011年4月6日
読了日 : 2011年4月6日
本棚登録日 : 2011年4月6日

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