マイノリティーの拳

著者 :
  • 新潮社 (2006年9月14日発売)
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感想 : 12
5

「ボクシングは金持ちに務まる職業じゃない。命懸けの危険な
ビジネスだからね。裕福な人間がグローブを嵌めるなんてのは
ジョークさ」

貧困と差別に晒され、犯罪と隣り合わせという環境で育った
黒人の少年たちは拳ひとつでのし上がれるボクシングの
世界で頂点に君臨することを目指した。

世界ヘビー級王者。最重量級の頂点を極めた王者であって
も、アメリカン・ドリームを手にした後には厳しい現実と直面
せざるを得なかった。

本書は自身もプロテストに合格し、しかし、故障からプロボクシ
ングの世界を断念した著者がアメリカに渡って元チャンピオン
たちと交流しながら10年の歳月をかけて書き上げた、5人の王
者の「その後」の姿だ。

モハメド・アリとのキンシャサでの対戦から20年後。45歳で
世界王者に返り咲いたジョージ・フォアマン。何故、伝道師と
なったフォアマンが45歳で復帰しなければならなかったのか。
彼の背負ったもの、自分の使命と考えることの懐の深さは
自身の生い立ちから来るものだった。

同じ指導者の元で育ったマイク・タイソンとホセ・トーレス。
タイソンにこそ取材が取材が出来ていないが、現役の頃
から引退後を考えて文筆修行をし始めたトーレスとタイソン
の人生の対比と、弟弟子であるタイソンに対するトーレス
の想いの深さにじんわりと来る。

何かと問題の多いプロモーター、ドン・キングを相手に訴訟
を起こしたティム・ウェザースプーン。シングル・ファーザー
として5人の子供を育てる為にリングに上がり続けた彼は、
ボクサーであるより父であることに重きを置いていた。

ライアン・バークレーはチャンピオンになりながらも、サウス
ブロンクスの狭い集合住宅で暮らし、45歳になっても生活
の為にリングに上がり続ける。

チャンピオンになったからと言って、その後の生活が保障される
訳ではない。フォアマンやトーレスのように「セカンド・チャンス」
を手に入れられる者の方が稀なのだろう。

厳しい現実に直面しながらも、彼らは必死に生きている。
そんな元チャンピオンに向ける著者の視線は、限りなく
温かい。そうして、ボクシングという競技に対する愛情も
溢れている。

いいノンフィクションを読ませてもらった。著者にお礼を言いたい。

尚、私は単行本を買ったまま積んでおいたのだが先日、文庫
で刊行されていた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年8月20日
読了日 : 2014年5月3日
本棚登録日 : 2017年8月20日

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