リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください--井上達夫の法哲学入門

著者 :
  • 毎日新聞出版 (2015年6月16日発売)
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本棚登録 : 679
感想 : 66

 法哲学という分野の書に手を出すのはほぼ初めてだが、本書は期待外れだった。筆者や出版社の問題ではなく、読者たる自分の理解力不足の問題なのだが。
 書名や、時折メディアに出てくる筆者の発言から、「リベラル」「リベラリズム」という語の多義性を、現実の諸問題に即して解説してくれるのかと期待していたら、そのような内容は冒頭の1~2割ほど。残りの部分では、法哲学の各思想をひたすら概念的に語っているため、分かりにくかった。また、筆者の口述を出版社が再構成しているという作りのためか、確かに一見読みやすいが、だからと言って内容が平易なわけではない。更に、「第一部」「第二部」以上の章立て・項目立てがなく、だらだらとした印象でもあった。
 筆者が重視する「正義概念」の本質は、「普遍化不可能な差別の排除」と「二重基準の禁止」。安全保障政策は通常の民主的討議の場で議論されるべきとして9条の廃止を、また無責任な好戦感情に国民が侵されないようにするために無差別公平な徴兵制を、それぞれ主張している。実現可能性はともかく、out of boxな思考としては面白い。また、過度の自己否定も過度の自己肯定も間違っているとし、リベラル派も保守派もお互いに自己批判的な視点をもって真摯な対話をする必要がある、という記述には頷けるものがあった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: その他
感想投稿日 : 2017年8月21日
読了日 : 2017年8月21日
本棚登録日 : 2017年8月21日

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