私たちはどこまで資本主義に従うのか 市場経済には「第3の柱」が必要である

  • ダイヤモンド社 (2015年12月11日発売)
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感想 : 17
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ヘンリー・ミンツバーグが、現代の社会構造について「バランス」を崩してしまっていると批判したもの。ミンツバーグがいうバランスとは、「政府セクター」「民間セクター」そして「多元セクター」の3つのセクターのバランスのことである。アメリカをはじめとする現代社会は、政府と地域コミュニティが弱体化し、私企業が強い影響力を持っており、バランスが失われている状態だという。一方、これに対して不満分子による革命は、別の形のバランスを欠いた社会に導くだけだとして退ける。

現在の状況を考えても、1989年は資本主義の勝利ではなく、共産主義社会がそのアンバランスによって自ら崩れただけであるというのが著者の主張である。「共産主義は、人間が人間を搾取するシステムだ。資本主義は、その逆である」とはうまく言ったものである。営利企業である民間セクターだけが突出しても、共産主義のように政府セクターだけによって社会がコントロールされても社会もよくならないというミンツバーグが、この本でその重要性を強調するのが「多元セクター」であり、各セクターのバランスの回復である。邦題は『私たちはどこまで資本主義に従うのか』だが、原題の「Rebalancing Society」の方が、著者の全体の主張に合致している。

「多元セクター」とは耳慣れない言葉だが、NPOやNGOなどがそこには含まれるセクターであると認識しておけばよいだろう。政府(public)と民間(private)に対して多元(plural)とpで始まる語を当てたというのもそのワードを使う理由でもあるが、ここに含まれるべき団体が非常に多様であるということもその大きな理由だ。また、個人指向のリーダーシップ、集団指向のシティズンシップに対して、協働指向のコミュニティシップを対置する。興味深いことにコミュニティシップについて、かつての日本企業を家族のような温かい雰囲気を持っていたが、非正規社員が増えて雇用の調整弁として扱われ、成果主義の導入が自分の業務範囲を超えて全体のために仕事をする習慣を失わせたと指摘する。

資本主義社会の中で、民間セクターだけに任せてしまうと、負の外部性の悪影響や格差の拡大を抑止することができないというのが著者の思いだ。アメリカ先住民の酋長の「私たちは、先祖からこの地球を譲り受けたのではありません。私たちは未来の世代から地球を借り受けているのです」という言葉が印象に残る。年金のことに関わらず、私たちは、未来の世代を搾取してツケを残してよしとしていないだろうか。民主主義や資本主義の論理では、未来の世代に対する責任を果たすことができないのではないだろうか。

『戦略サファリ』を書いたミンツバーグは、少しシニカルで知識を整理するのが得意な知識人であった。
『マネジャーの仕事』や『マネージャの実像』を書いたミンツバーグは反MBAで現地現物を重視する人であった。
あくまで自分の感想だけれども。
本書のミンツバーグは、経済格差に反対し、NPOやNGO押しのリベラル人。これまでのミンツバーグの著作とはかなり色が異なっている印象を受けた。バランス重視なところは一貫しているが、それが著者の思考の特徴なのだと思う。

自分としては、現地現物マネージャを称揚するミンツバーグの方により共感するのだけれども。



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『マネジャーの実像』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4822248364
『マネジャーの仕事』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/456124218X

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2016年12月23日
読了日 : 2016年12月8日
本棚登録日 : 2016年12月9日

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