LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

  • 東洋経済新報社 (2016年10月21日発売)
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【はじめに】
「人生100年時代」という言葉が初めて聞かれたのは、多くの人にとっては2016年に小泉進次郎らが主導して「2020年以降の経済財政構想小委員会」の中で今後の日本社会の状況を伝えるために使われたときだろう。本書『LIFE SHIFT』は、その「人生100年時代」という考え方のベースにもなった本である。

日本で2007年に生まれた子供の半分は107歳まで生きることになるという。世界でも100歳の声を聞くことができる人の割合は半数を超えるだろうと言われている。1世紀前に生まれた人は100歳を迎えることができる割合が1%に満たないことを考えると長尺の進歩である。最近読んだ『LIFE SPAN』や医療未来学者の奥信也さんの本を合わせて読み、そこに書かれた技術革新の加速度性とバイオ・ナノテクといった領域での進歩の余地を考えると思ったよりも早くその世界は来るのだろうなと確信している。本書は、そういった「人生100年時代」を迎えたとき、われわれの人生をどう考えるべきかについて論じたものである。

【概要】
「人生100年時代」になったとき、大きく変わらざるを得ないのは、個人の人生設計である。これまでの寿命を70歳代くらいであることを前提とし、そこから就職と引退を区切りとした教育・仕事・引退、の三ステージの直線的な生き方は、これからは成立しない世の中になる。より長く働き、継続的に自らを再教育していくような「マルチステージ」の人生設計が必要な時代になる、というのがここで書かれていることだ。

まずとにかく、長く生きるのだから、長く働くことが求められる。国の年金制度は破綻し、企業年金制度もおそらく先細る。したがって、貯蓄・資産運用・共働きなどもますます重要になる。また長く生きるとすると、有形の資産形成も重要だが、それ以上に友人関係・家族関係などの無形資産が大事になってくる。人生の最後の時間は単なる余暇を楽しむ時間(レクリエーション)ではなく、再創造(リ・クリエーション)の時間だと考えるべきである。マルチステージの人生をうまく歩んでいくために、著者は「オプション」を増やすべきだという。つまり、自分の幅を広げるということだ。そのための無形資産として、生産性資産(知識、ノウハウ)、活力資産(健康、家族・友人)、変身資産(自らを変えていく能力)が重要になってくると説く。
重要なことのひとつ(重要なことはたくさんあるのだが)はエイジとステージが切り離され、そうであるがゆえに、これらの無形資産の重要性が増していくということだ。

本書の中で、ジャック(1945年生まれ)、ジミー(1971年生まれ)、ジェーン(1998年生まれ)の三世代がどのように異なった世界を生きていくことになるのかが描かれている。この寸劇的描写には好き嫌いがあるのかもしれないが(自分は、なくてもいいんではと思う方)、とにかくこの三世代で大きく家族観や仕事観が変わるであろうことが明確に示されている。
もちろん、これらは想像上の事例に過ぎないが、ひとつの傾向性を示していると言える。そして、あなたが何歳であっても、変化に備えることが必要だということは言えるのではないだろうか。

【所感】
寿命が伸びる話はもちろん個人に関しては長生きできるというのはおおよそよいことではあるのだけれども、社会面では高齢化社会の進展とそれによる社会保障制度の崩壊のイメージと強く結びついているのが実情だ。「人生100年」と言われた場合にも、そういった負の側面をイメージする人が多いのではないだろうか。先般、老後の資金が引退時に2,000万円必要という数字だけが独り歩きしたニュースがあった。あれ自体はとても受け取る側のリテラシーの問題を強く感じたものだったが、一方で世の中でその不安が根底に根強く渦巻いているのがあるからだろうというのは容易に想像がついた。

この件でもっとも大事なことは、平均寿命が伸びることと、健康寿命が伸びることは大きく違うことを意味しているということを理解し、区別することだ。そして、その理解の下で初めて長寿化の問題は個人の人生設計の選択の問題として正しく目の前に現れるということだ。

著者はこれからの生き方として、「エクスプローラ」「インディペンデント・プロデューサー」「ポートフォリオ・ワーカー」といった新しい働き方のカテゴリーを提唱しているが、そんなに難しく考えることはないだろう。いずれにせよ、学習をし続けて、人間の幅を広げようということだと思う。それはそれで楽しいことだと思う。もはや20代で付けた知識が引退するまで通用することはほぼないというのは、情報通信産業で働いているとよくわかる。例えば自分はISDNが主流であったときに入社したのだが、そのときに言われたのが、ISDNを勉強していればしばらくは飯のタネになる、というものだった。ISDNはもはや過去のものとなり、サービスの完全終了もあと数年だ。固定電話も早晩無用の長物になりそうだ。

本書では日本語版への序文が付されるとともに、本文の中でも日本を長寿化の先進国として、ある種の期待をもって語られている。個人も社会も変わらないといけない。個人的に期待しているのは、変わらなければならないということが明らかになったとき、日本という国はこれまでかなりうまくそのことを受け入れてきたことだ。

健康寿命への社会的地位や経済力の影響は、平均寿命への影響よりも大きいかもしれない。社会格差・経済格差が世代で固着化する傾向が進んでいると言われる中、情報へのアクセス含めて新たな不平等への懸念も生じる。かなり射程の広い本。現代社会の基礎本と呼べるかもしれない。

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『LIFE SPAN: 老いなき世界』(デビッド・A・シンクレア)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4492046747
『未来の医療年表 10年後の病気と健康のこと』(奥信也)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4065211379

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2021年2月23日
読了日 : 2021年1月17日
本棚登録日 : 2021年1月17日

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