最初から最後まで、凄まじい狂気の物語だった。
突き抜けて狂っているので、ただの変態じゃんストーカーじゃん、のように冷静に突っ込む隙がなかった。
一目惚れ、した相手を、「天鵞絨」と密かに呼んで忍び慕う。十六年もかかって、やっと出逢えた「あのひと」。
妄執。愛。狂気。
こんな一目惚れ小説は初めて読んだ。
主人公だけがどこまでも狂っている。
呪いのような、脅迫のような、けれどもその感情が相手に剥き出しに向けられることはなく、ひたすら自分の中で、濃厚でいびつな愛情の層が重ねられてゆく。
玲子やその恋人はあくまで常識人。日を追うごとに、えりの行動はエスカレートしていく。けれども、表面的には二人は親友同士。表面的。玲子がいかに友人としてえりを愛しても、えりにとっては、表面的にしかなりえない。
二人の懸隔は埋めようがなく、二人の感情は交わることがなく、玲子に出逢ったがために、こんな風に生きるよりほかなくなってしまったえりが、不憫で、恐ろしくて、悲しくて。
結末は、もうどうしようもない、愛の成れ果て。こうなってしまったか、と苦い思いがわき上がる一方で、これでやっと終われた、という安堵が読語の余韻として残った。
そしてタイトルも秀逸。
「ほかに誰がいる」のところ、ぞっとした。この文章の直前の描写からの「ほかに誰がいる」は怖すぎる。
痛々しい、切実な、声にならない叫びのようだった。静かに語られるから、凄みがあって重かった。
表紙詐欺も甚だしい、素晴らしく凄まじい、愛と狂気の物語だった。
- 感想投稿日 : 2014年10月4日
- 読了日 : 2016年3月5日
- 本棚登録日 : 2014年6月26日
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