消えたヤルタ密約緊急電 (新潮選書)

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  • 新潮社 (2012年8月24日発売)
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感想 : 14
5

もんのすごいおもしろい。
この一冊で、太平洋戦争関連の話が、二倍興味深くなる。
説明や経緯が詳細で、今まで読んできた本に、ちらりとしか書かれていなかったことや、まったく書かれていなかったことが満載。
おもしろくて、情報量が多すぎて、抜粋ですら、とてもまとめきれない。
これは再読した方がいい。

米英ソのヤルタ会談では、日ソ中立条約を結んでいたソ連が「ドイツの降伏から三ヶ月後に日本に侵攻する」と。
これを、情報士官の小野寺信が掴んで、中立国だったスウェーデンから、日本に機密で電報送っている。ドイツの敗色が濃厚になった時期にも、他の重要な情報を非常に多く。
けれど、これらを大本営で握り潰された。
「自分たちのシナリオにそぐわない。ソ連が日本に侵攻するわけがない」
「ドイツは破竹の勢いだ。負けるわけがない」
「ソ連には和平の仲介を頼んでいるんだ。勝手にスウェーデンと交渉するな」
などなど……ヤルタ会談の直後に小野寺がこの情報を送っているんだから、それさえちゃんと認識して使っていれば、ソ連に和平仲介なんか頼まず、広島長崎に原爆も落とされず、ポツダム宣言の受諾後にソ連に侵攻されて北方領土を奪われることもなかったろうに……
(かろうじて、共産党の衛星国にならずに済んだのだけがさいわい)

この小野寺の働きを、戦後に、嘘で塗り固めようとした瀬島龍三……我が身大事ばかりで、日本は負わなくてもいい負債まで負ったんだ。
『外交敗戦-130億ドルは砂に消えた-』でも、日本はインテリジェンスを活用出来なくて、とんでもない額の戦費を無駄に支払っているのに。
(ここらで活躍した情報は、小野寺氏の息子さんだそうだ)

杉原千畝の「命のビザ」発給は、ポーランドに逃げ込んでいたユダヤ人を、ポーランドと情報交換していた経緯から救った。だから、ポーランドは日本に感謝して、連合国側に回ったにも関わらず、情報を流してくれた。



p123
蒋介石のバックにはアメリカがついて、ABCD包囲網とともに蒋介石政権に援助していたのは、何度か読んだけれども、ソ連の関わりは考えなかった。
「蒋介石の国民党の背後に、敵対関係にありながら「抗日」で合体を模索する中国共産党がいて、それを操っているのは、世界に共産主義を浸透させようとしていたソ連のコミンテルンであることを見抜いていた。
 英米が支持する国民党政府は共産党と国共合作を進めていて、日本軍が侵攻を続ける限り、戦争は泥沼となるだろう。日本軍が矛を納めない限り事態を救えない。国民党政府との戦争が長期化すれば、利するのは中国共産党であり、ソ連である。そこで小野寺は、早急に蒋介石国民党と和平し、ソ連、共産党対策を優先すべきと考えたのだった。」


1939 独ソ不可侵条約
この条約に基づいて、ドイツはポーランドに侵攻。ソ連もその後、ポーランドに侵攻。
ポーランドは1944ワルシャワ蜂起あたりで、ソ連がわざと救助を遅らせて、二度、世界地図から消えた。(ここらは今度、別の本読む)


あとはもう……内容が濃すぎて、まとめも抜粋も断念。
ドイツが敗戦間際に、小野寺に和平仲介を頼もうとしていたとか。
日本の敗戦間際、もうとにかく天皇制の護持だけでもっていう状況で小野寺がせっかくスウェーデンに和平仲介の労を取って貰えるかも、というところだったのに、日本の軍内部で小野寺の行動を疑惑視してそのルートを潰したとか……

省庁縦割りの弊害、ねたみ、シナリオにそぐうドイツの大本営発表だけ信じて自分に都合悪い情報は切り捨てるとか……
読んでいて歯がゆく、憤懣やるかたなくなるけれども、まっとうに日本のために働く、こういう人たちがいてよかった。

参考文献の多さもさることながら、アメリカやイギリス、ポーランド等、各国の資料も調べた著者に敬意。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2013年3月24日
読了日 : 2013年3月24日
本棚登録日 : 2013年3月24日

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