日本の外交: 明治維新から現代まで (中公新書 113)

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  • 中央公論新社 (1966年9月1日発売)
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明治以降の日本の外交が、どういう状況、どういう概念の下に行なわれていたか。
政府が現実路線で外交を行なっていても、国民は理想路線を唱えていて、その差が激しく軋轢を生んだ等、日本史の教科書とは違う側面をたくさん提示してくれる。
特に、日露戦争のあたりが印象深い。
簡単に紹介すると、当時の日本はアメリカなどの思惑によって経済や政治的援助を受けて、ロシアに勝利した。
しかし、国民はそれを知らず、ロシアの領土割譲や、億単位の賠償金を叫んでいた。
現実を知る、全権大使小村寿太郎は懊悩していた。実際、国民の望むような賠償を得られなかった彼は、新聞で「弔旗を持って迎えよ」などと、黒枠写真入りで叩かれたそうな。
ときの首相伊藤博文は出発前の小村に「他の誰が君をそしっても、私だけは君の帰国の迎えに出る」というようなことを行って送り出したと。

しかし政府と国民、軍部の乖離ってのは、情報操作・制限もあってこそ生まれるものだよなあ……

外交は、自国の利益だけ考えて、孤立していてなるものではない。特に、情報や交通の発展した時代においては。
一国の行動の裏には、何かの目的がある。たとえば、アメリカが中国を支援したら、それはソ連(当時)を牽制するためであった、等の事例も多かった。
外交思想。
この行動の下敷きには、何の思想があったか。どういう概念で外交政策を選択していったか、ということを解いていく。思想ない行動と、選択肢がなくてそれしか選べない行動、というのは、結果が一時的に同じでも、その後の態度と方向性において別物なんだろうな。

以下、抜書き。
「帝国主義とか軍国主義とかいう枠ですべてを割り切ってしまうと、外交政策における主観の問題を無視することになりかねない。要は、主観と客観の両要素を結びあわせることであり、ある国の指導者や国民が世界情勢をどのようにとらえ、どのようにそれに対応しようとしていたか、このとらえ方と現実とのあいだにどのような関連があったのか、といった点を調べることによって、その国の直面していた諸問題、ひいては国際政治におけるその国の役割を学ぶことができよう。」

外交とは何か、についての体系化

1、外交政策の決定
 イ、政策決定者による国際情勢の認識
 ロ、ナショナル・インタレスト(国家利益)の定義
  A、軍事(国防)
  B、経済(貿易、投資)
  C、思想(道徳的考察、国の威信、地位など)
 ハ、政策の選択を限定する要素
  A、外交の通則(一般に受け入れられている観念、慣習など)
  B、国際法、条約、先例の拘束
  C、軍事的経済的能力
  D、国内的諸条件
    a、行政上、法規上の障害(たとえば日本憲法第九条)
    b、国内治安秩序維持への配慮
    c、政策決定者による世論の判断
2、政策の遂行
 イ、政策の表現(具体的にどういうことばを使うか)
 ロ、世論の支持をうるための努力
 ハ、実際の対外交渉、協定等の技術
3、政策の評価
 イ、政策がその目的を達したかどうか
 ロ、政策決定者の認識した国際情勢と、現実とのギャップ
 ハ、政策が国際環境におよぼした影響

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 外交・国際
感想投稿日 : 2010年2月8日
読了日 : 2010年2月8日
本棚登録日 : 2010年2月8日

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