Inherit the Stars(1977年、米)。
これがハードSFというものか、と唸らせられる本格SF。月で発掘された人間の遺体、推定死亡時期は5万年前…。いくつもの仮説と反論が交錯し、検証の過程で新たな謎が次々と浮上する。物語の大半は議論に費やされ、文章は耳慣れぬテクニカル・タームの洪水である。小説としては、読みにくい部類に属すると言っていいだろう。
だがSF好きにとっては、そこが逆に魅力なのだ。SFに対して、純文学サイドからは「人間が書けていない」との批判がある。しかし誤解を恐れずに言うなら、宇宙の深遠な謎に迫ってゆく興奮に比べれば、個々の人間の心の機微は小事である。また科学ファンにとっては、気の利いた隠喩など用いずとも、難解な数式やテクニカル・タームそのものが、空想をかき立てる一編の詩なのである。
「行って我々の正当な遺産を要求しようではないか」というダンチェッカーの高らかな宣言は、あるいは傲慢なのかもしれない。しかし理系寄りの私としては、その不屈の学者魂に、というかその台詞を言わせた作者に、「その意気やよし!」と拍手したくなってしまうのである。後続の作品で、ハントとダンチェッカーがどんな知的冒険を見せてくれるのか、とても楽しみだ。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
SF
- 感想投稿日 : 2011年3月21日
- 読了日 : 2011年3月20日
- 本棚登録日 : 2011年3月11日
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