ゴッホの手紙 下 テオドル宛 (岩波文庫 青 553-3)

著者 :
  • 岩波書店
3.91
  • (14)
  • (13)
  • (18)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 257
感想 : 17
5

ゴッホの手紙、下巻はゴーギャンとの共同生活が実現して、すぐに破綻して、耳切り事件があって、精神病院に入院して、自殺するまでの転がり落ちるような勢いがすごい。
ゴーギャンと仲違いしたのが耳切り事件の発端かと思っていたけど、その前から調子が悪いとか、病気になりそうという記述があり、発作の前兆はあったようだ。短いながらも、ゴーギャンと一緒に美術館に行って作品について白熱した議論をしたり、モデルを見ないで描くことを勧められたり、ゴッホが夢見ていた共同生活は楽しそうで微笑ましい。
でも次の手紙から完全に別人のように意気消沈している。画家としての自身も喪失し、共同生活も諦めている。弟からの仕送りで額縁をたくさん買っていた頃とは打って変わって、文章も散らかりがちで力がない。ずっと奇声を発している患者やあるものを全て壊す狂人のような、結構な重症患者と一緒に病院に入院して、再度の発作が起こることをおそれて過ごしている。名画の写実をするなど絵を描き続けているが、なぜか画家になる夢が過去形のように語っている。この間も素晴らしい作品を生み出し続けているのが嘘のようだ。
最後の2通の手紙では、テオに手紙で色々書こうと思ったが、無駄だと思ってやめたと書いてある。亡くなったときにポケットに入っていた手紙は、ゴッホの抱えている混乱や失意が溢れているようで、読んでいてとても悲しい。
「そうだ、自分の仕事のために僕は、命を投げ出し、理性を半ば失ってしまいーそうだーでも僕の知る限り君は画商らしくないし、君は仲間だ、僕はそう思う、社会で実際に活動したのだ、だがいったいどうすればいい」(第六五二信)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年12月5日
読了日 : 2023年12月5日
本棚登録日 : 2023年12月5日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする