『生みすてられた子どもたち』を読むのが本当にしんどくて、癒されたく本書を併読しました。
著者の本はまだ二冊目だけど、大好き。一冊目(エストニア紀行)は脳裏にリアルに再生される自然描写に、自然って言葉だけでこんなに伝わるように書けるんだ...と感動して、今回はテーマ(文化と文化の交わるところ)が個人的な興味関心と沿っていて心に深く染み込んだ。
215p
今、私のいるこの場所から、ゆるやかに拡がって到達しうる場所に、彼らはいる。私たちが一つの惑星の、ただ異なる場所におり、海と陸とに風が吹き、あらゆる文化圏の人々とも繫がっているように。
247p
世界は、相変わらず迷走を続け、そして私もその中にいる。
ややもすると堅い文章にもなりそうな話題なのに、柔らかく、しっとりと、温かく書けるのはなんでだろう。著者のペンの力はもちろんのこと、著者が「命のように大事に思っている日本語の世界」の、日本語が言語として持つ力の一面なのではないかともふと思った。
本書で描かれる西洋系の人の強み(普遍性を持って語りかける力)と弱み(下手すると厚かましい)は考察中のテーマなので、引き続き考えたい。
一つだけ、厚かましくも一言コメントしておきたいのは、「トロントのリス」のイスラームの描写。イスラームの中にもかなり多様性があるので、このエッセイで描写されているイスラームだけが標準形だと思わないでいただけると嬉しいです。著者の意図は当然そこにはないということは分かっているのですが、もっと日本人の私たちにも分かりやすい、アジア圏のムスリムの友人のことが頭に浮かびどうしても触れておきたくなったのでした。
- 感想投稿日 : 2021年1月11日
- 読了日 : 2021年1月10日
- 本棚登録日 : 2021年1月6日
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