専業主婦の小夜子と社長の葵の二人の主人公を軸に、人と人とのわかりあえなさと、女性の友情を描く直木賞受賞作品。
自分に取れる選択肢が限られていてがんじがらめの学生時代から、年齢を重ねて「選んだ場所に自分の足で歩いてい」けるようになるまで。大人になる楽しさってそういうところにあるべきだよな、と思った。
森絵都さんの解説の言葉が美しくて、これも良かった。
(引用)人と出会うということは、自分の中にその人にしか埋められない鋳型を穿つようなことだと思っていた。人と出会えば出会うだけ、だから自分は穴だらけになっていくのだ、と。
けれどもその穴は、もしかしたら私の熱源でもあるのかもしれない。時に仄かに発光し、時に発熱し、いつも内側から私をあたためてくれる得難い空洞なのかもしれない。
一方で、日本の小説を読んでいて定期的に感じてしまうのは、言葉足らずによるすれ違いの多さ。
共有している文脈の多さに信頼をおいて、気遣いの文化を構築している(=相手の思っていることが分かるという前提で、相手から言われる前に先回りして動く)のは大切にしていい日本らしい文化だと思うけど、
こと友情関係を結びたいと思っているときに関しては、もう一声腹を割って話すことをしてもいいんじゃないかと思ってしまう。特に苦難に直面しているとき、同じ日本人同士でも、感じることは結構一人一人違うのではないか。日本人の中の多様性に目を向けた方が、より生きやすくなる場面もあると思う。
これについてはフランスの書評家さんも「日韓文学の基盤にある、コミュニケーション不足の文化」みたいなことを指摘しているのを見たことがあり、ヨーロッパ文化圏との違いが際立つ部分らしく、つい毎回反応してしまいます。
- 感想投稿日 : 2023年1月4日
- 読了日 : 2023年1月3日
- 本棚登録日 : 2023年1月3日
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