宇宙の本質について、異様なほど幅広く理論的な考察を行いながら時を過ごすと言われる星、ソラリス。そのソラリスを取り巻く海は、人間がコンタクトを図ろうと試みると、その人間の「記憶の中で一番頑強で永続的な痕跡」を意識の底から拾い出し、実体化させる性質を持っている。ソラリスの研究者であるケルヴィンはこの作用により、若いときに自らの過ちで自殺に追い込んでしまった妻と再会。妄想でも本物の人間でもない彼女と、不条理な、苦痛にまみれた愛の日々を過ごすこととなる。
詩情あふれるタルコフスキー監督の映画『惑星ソラリス』により、広く知られることになった本書だが、著者はこの映画のラストシーンに激怒したと伝えられている。確かに、絶対的他者として描かれたはずのソラリスを、望郷への慰撫に堕した非はタルコフスキーにあるだろう。けれども、おそらくは、彼もまた犠牲者なのだ。
タルコフスキーはロシアからの亡命者で、54歳の若さでパリで客死した。彼の、「記憶の中で一番頑強で永続的な痕跡」は、明らかに故国であったろう。そのため、本書の圧倒的な世界観に打たれた彼はソラリスの海に呑まれ、自らの作品を感傷に売り渡すことになってしまった。
原作のある映画では、恣意的な精神活動が起こることがある。これもまた、化学反応の1つなのかも知れない。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
文芸
- 感想投稿日 : 2013年3月15日
- 読了日 : 2013年3月15日
- 本棚登録日 : 2012年12月9日
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