切なさいっぱいのSF短編集。
狭義のSFにこだわる人は受け付けないかもしれませんが、この作品におけるSFはギミックに過ぎないと思います。
時に聖性すら帯びる小悪魔的な少女の媚態、ユーモアとエロスが織り交ざる独特の雰囲気など森奈津子が森奈津子たるゆえんがたっぷり堪能できる隠れた名作。
収録作もバラエティーに富んでいて楽しめます。
個人的に好きなのは「いなくなった猫の話」。
場末の酒場の女(といっても十分若い)の回想から幕を開ける異色な冒頭からしてちょっと毛色が違いますが、淡々としながらもしっとりした艶を含む語り口にいつしか魅了され、拾った猫の子との間に愛情を育んでいく姿が目に浮かびます。
「人生って、得ることと失うことの連続だと思わないかい?
獲得と喪失の繰り返しって言えばいいのかな。
形あるものはいつかは壊れるって言うじゃないか。
それと同じだよ。
手にしたものは、いつかは失う。
愛した者とも、いつかは別れる。
得たり、失ったり。それの繰り返しさ」
少女は砕瓜を迎え大人になる。
それは神秘に包まれた少女性を喪失し、「女」という別の生き物に生まれ変わる事。
大きな喪失を体験した小夜の言葉に、森作品に通底した「喪失と再生」のテーマを見るおもいです。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
未設定
- 感想投稿日 : 2017年8月25日
- 読了日 : 2017年8月21日
- 本棚登録日 : 2017年8月21日
みんなの感想をみる