ピアニシモ (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (1992年5月20日発売)
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新しい中学に転校した透はさっそくいじめられる。ヒカルだけが彼の友だち。ヒカルは彼にしか見えない存在。

透の父親は仕事人間で見かけることはほとんどない。母親のことは好きだけど、誰よりも憎い。透は学校に行くのをやめた。NTTの伝言サービスで知り合ったサキには本当のことを話せた。僕とヒカル、そしてサキだけの世界。

説得されてしかたなく行った学校でいじめられ、帰宅すると父親は飛び降り自殺していた。サキに電話して会う約束をしたが、彼女は現れなかった。

透は丘の上から乳母車を押し出す。コンビニで遭遇したクラスの連中を押し倒してガラスを割り、追いかけてきた奴の頭をレンガで殴る。電話ボックスでサキに電話をするが冷たくあしらわれて、受話器を引っこ抜く。近くにいた老犬の頭をかち割る。”トオルちゃん”と呼んだヒカルに「消えろ」と叫ぶ。

家に帰るとやつれた母がいた。透は母に優しく接した。彼はヒカルなしで生きていくことを決めた。

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家にも学校にも居場所が無くて、どうしようもない状況透くんの暴力衝動が爆発する後半が素晴らしかった。
理不尽な扱いを受けてきた透くんが、理不尽な暴力を振るう。暴力の連鎖、悲しいなあ。

自立とか成長といえば素敵なエピソードに聞こえるけどそういう話じゃなかった。
身動きが取れない沼のなか、泥水で顔を洗うような話。

正論が通用しない、暴力が蔓延する世界で生き残るのに必要なのは暴力ってことなのかな。絶望しかないなあ。
出来れば爆発しないように生きていきたいと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 辻仁成
感想投稿日 : 2020年8月7日
読了日 : 2020年8月5日
本棚登録日 : 2020年8月5日

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