少年Aこの子を生んで: 父と母悔恨の手記

著者 :
  • 文藝春秋 (1999年4月1日発売)
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酒鬼薔薇聖斗の両親の手記。
2人の小学生を殺害し、生首を中学の校門に遺棄し、警察に挑戦状を送った14歳、中学3年生、少年A。

この本は読むのは2度目。
前に読んだときは、父母共に”息子の奇行に気づけなかった自分たちが悪いのです。育て方に問題があったのだと思われます。ごめんなさい”というメッセージの手記に感じた。
今回読み直してみて、両親のメッセージは違うように思えた。
”息子が大変ひどいことをして申し訳ありません。でも、本当に息子(だけ?)の犯行なのでしょうか?”と訴えているように感じた。

少年A逮捕直後から、本当に少年Aが酒鬼薔薇聖斗なのか?という声はあった。
しかし、殺人容疑で中学生を誤認逮捕したとなればそれこそ警察の信頼はゼロになるだろう。絶対的な自信を持って当時の警察は少年Aを逮捕したのは間違いない。

ただ、単独犯ではなく複数犯ではないか、という声も少なくない。
今回、この手記を読み直して感じたのも、息子だけが犯人なのでしょうか?と両親は疑っているのではないか、ということだ。
具体的にいえば、何度となく暴力事件や万引きで指導された少年Aだったが、彼が指導されるときはひとりではなく、何人かの友人が一緒だったことがあった。
両親は少年Aの友人を共犯ではないか、と疑っていたように、いまさらながらそんなふうに感じた。

もう18年も前の事件なんだな。
池田小の事件や秋葉原の歩行者天国の事件、救いようのない殺人者は何人もいる。彼らは圧倒的な悪だ。しかし、彼らの目線、彼らの気持ちを考えたとき、ただのキチガイと割り切れるかといえば、そうとも言えない。

『みんなの願いは同時には叶わない』と宇多田ヒカル氏は歌った。
被害者の両親はきっと、自分の子どもの幸せを願っていたことだろう。少年Aは誰かを殺したくて、傷つけたくて仕方なかった。そんな行為への性的興奮を抑えられなかった。少年Aが自身の欲求を満たした時、被害者の両親は失意のどん底に落とされた。

そういうことでしか欲求を満たせない人はいったいどうやって生きていけばいいのか。難しい。みんなの願いは同時には叶わないのか。

『SKOOL KILL』という曲をロックバンド・銀杏BOYZは歌う。
酒鬼薔薇聖斗の声明文からの引用だ。銀杏BOYZの峯田氏は「酒鬼薔薇聖斗はみんなの心のなかにいる」と言う。みんな誰かを殺したいと思ったことがあるはずだ、と。

人を殺す人間と殺さない人間の違いは何なのか。
ゴキブリの命と人間の命の違いは何なのか。
何かが違うのかもしれない。全部一緒なのかもしれない。
誰もが同時に幸せになることはないのか。
ひたすらに難解で答えがないような闇を感じる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: その他
感想投稿日 : 2014年2月12日
読了日 : 2014年2月8日
本棚登録日 : 2014年2月8日

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