5月の連休中の読書です。
カズオ・イシグロが昨年ノーベル文学賞を受賞した時に買ったまま、本棚にしまっていたのを引っ張り出して。
1950年代のイギリスを舞台に、年老いた執事・スティーブンスが成年期に過ごした日々を一人称で回想する本書。
1930年代のイギリス、というのがピンとこなくて、ネットで世界史の年表にあたる。
ふむふむ、世界恐慌を受けて各国が保護主義貿易を強める中、ファシスト政権が台頭し、第二次世界大戦に向けて緊張感が日に日に増していた頃、と。
ちょうど本書を読み終わったばかりのタイミングで、公開されていた映画『ウィンストン・チャーチル:ヒトラーから世界を救った男』(原題はDarkest Hour)を観たのですが、比較できて面白かったです。
『ウィンストン・チャーチル』は、政治を動かす中心にいる上流階級の、それに対し、本書は上流階級に仕える周辺の人間の、それぞれ対照的な目線でこの時代のイギリスの苦境を描いています。
そして、このスティーブンス氏が、なんともツッコミどころ満載の人物で。
決して悪人ではない、むしろ、職業意識の高い真面目な人物なのですが、どうにも不器用すぎる。
特に、かつて同僚として働く中で恋が芽生えたミス・ケントンへの態度は、ちょっと都合が良すぎると思いました。
でも、忙しい仕事の合間にこっそりロマンス小説を読むことを楽しみにしていたり、色々おっちょこちょいで、憎めない。
そんなスティーブンスが、第二次世界大戦や、ナチスの台頭と敗北に巻き込まれ、彼が信じて身を捧げてきた全てが過去になった時、口にする言葉が良かったです。
時の流れの中で、自分も周りも変わってしまったときに、どう物事を受け止めるか。
過去は過去、とさっぱり切り替える考え方もありだとは思うんですが、個人的には、ちょっとさみしすぎるなと。
歴史のうねりの中で成す術がなかったとしても、振り返ってみれば以前とった行動が愚かに思えたとしても。
必死に生きてきた自分を静かに肯定するスティーブンスの言葉は、時代も政治体制も異なる国を生きる私にも、響きました。
本書の中で、しばしばスティーブンスが「品格」とは何か、ということについて考察をするのですが、良い部分も悪い部分も含めて自分を肯定し、先へ進もうとする姿こそ、もしかしたら「品格」なんじゃないか。
そうだったらいいなと思います。
翻訳であることをほとんど感じさせない土屋政雄の訳、この小説の成り立ちを鮮やかに描写する丸谷才一の解説も素晴らしくて、本編と一体となって一冊を完成させています。
- 感想投稿日 : 2018年5月18日
- 読了日 : 2018年5月6日
- 本棚登録日 : 2018年5月6日
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