≪世にも素敵な商売よ。コンサートは常に生だし、常に旅先で新しい楽器にご対面。中には自分の楽器を持ちこむ人もいるけど、ほとんどのピアニストは行く先々の港で待ってる女に合わせなきゃなんないのよ。そういやこの女はここが性感帯だったなとか、意外に気難しい奴だったなとかきちんと覚えておかないとあとが大変。みんな、自分の楽器と一緒に旅できる他の音楽家を羨ましく思ってる。ま、ヴァイオリンとかフルートとか軽い楽器の人に限るけどね。大きな楽器の人はあんまり羨ましくないや。≫
この作者が、楽器演奏をする人かどうかわからないけど、この本を書くにあたり、良く調べて書いたのだなと思った。
例えば「弾く人によって楽器の音が違う」ということ。
(ピアノのように大きい楽器も、ウクレレやハーモニカのように小さい楽器も、みんなそうなのだからびっくりする)
三次予選の場面もでの、「慣れてきて音が流れてしまわないよう、集中力を発揮しなければ」ということば。
緊張して走ってしまった時の表現、「しかし、ザカーエフのブレーキは故障したままだった」というのも、楽器演奏する人には覚えがあるはず。
私はKindleで読んでいて、気になった言葉は「ハイライト」機能でシルシをつけるのだけれど、この本には本当に「刺さる」言葉が多すぎて、たくさんハイライトしてしまった。
初めは、主人公(なのかな?)の風間塵目線で本を読んでいたけれど、読み進むうちに他の主要人物の方に心が惹かれていった。
明石の「生活者の音楽」という言葉と「ステージで演奏する喜び」
かつて幼なじみだった亜夜とマサルの関係などにも。
亜夜と塵が一緒に演奏していた場面で描かれる、演奏をする喜び、「どこまでと飛べる」と思える万能感、セッションのスリル。
今まで、楽器の演奏をしていなかった人にも、この本に書かれている文章で味わって欲しいなと思った。
全編を通して、音楽が見えるような文章でした。
この作者の本ははじめて読んだけれど、他の作品も読んでみたい。
- 感想投稿日 : 2017年4月26日
- 読了日 : 2017年4月26日
- 本棚登録日 : 2017年2月10日
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