虚数 (文学の冒険シリーズ)

  • 国書刊行会 (1998年2月1日発売)
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本棚登録 : 459
感想 : 28
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互いに認識しあうことも理解しあうこともない知性同士のコンタクト、っていうのはレムが何度も何度もしつこく書いてきたテーマな訳です。<BR>
脳や言語、その他肉体的なもろもろの構造に制約された私たちヒトが持てる知性には独我論的ではない、種としての限界がどうしても生じるがために、ヒトの構造とは共通点がない構造から生じた知性との相互理解なんて無理だよね。という。<BR>
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そういう彼の考えは、まず「侵略か共存しかしないSFの異星人なんて笑っちゃうぜ!」という形で表れて「砂漠の惑星」「天の声」「ソラリス」等の作品の中核になり、<BR>
人間に興味を持たない、というか他種の知的生命体として認識すらせずに、ただそこにいて自分達の知性を駆使して何らかの活動を営んでいるようなものたちを生み出してきたのだけれども(惑星ソラリスはちょっと例外的な行動を取るけれど)。<BR>
その核となっている思想を、SF的な背景を極限まで削ぎ落として煮込みに煮込んだのが、この本。<BR>
ある意味レムSFの集大成。<BR>
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この本の構造を大まかに言うと、四冊の架空の本のための序文を集めた前半部分と、人間の知能を超えたコンピューターの人間への講義録を収めた「GOLEM XIV」、という二部構成になっています。<BR>
一応、前半部分は後半のテーマとなる部分をゆるーく取り扱うことで、準備運動としての機能も果たしているじゃないかと思いますけど、「GOLEM XIV」のあまりのぶちぎれっぷりに、それほどこういうジャンルに興味がない人だと前半だけ読んでお手上げーということも結構あるんじゃないかと。<BR>
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「意識」等、人工知能関係の核となるものの定義すらあやふやだし、そもそも人間的なものから離れた知性を具体的どころか漠然と想像することすら難しい今だと、やっぱり「GOLEM XVI」も所詮SF、夢物語に過ぎないのかもしれない。<BR>
それでもそういうフィクションの場を作り出したレムの想像力、テーマの掘り下げ方の尋常じゃなさっていうのは常人からかけ離れていると思うのです。<BR>

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感想投稿日 : 2007年3月2日
本棚登録日 : 2007年3月2日

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