人生論としての読書論

著者 :
  • 致知出版社 (2011年9月16日発売)
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感想 : 20
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深い。これは深い。

「人生二度なし」「真理は現実のただ中にあり」を信条に、その生涯を教育に捧げた昭和の思想家、森信三先生の読書論です。実践に基づいた独自の教育論を説き、全国各地で精力的に講演活動をされていた方です。読書論に関する著作はひととおり散策してきましたが、本書を通して、知識の希求に関する自分の覚悟の浅はかさをひしと思い知らされることとなりました。

著者の選書の基準は以下の三つ。
・人間の生き方そのものを求める宗教的哲学的な読書
・直接職業に関係する専門的な読書
・広義における教養並びに識見を培う読書

書物には人間を取り囲む森羅万象が反映されている。●書物を読むということは、人間が幾多のすぐれた人々を使って、この無限に複雑な現実界の諸相を探知しようとする努力に他ならない。としながらも、●叡智が得られる正しい読書とは、本を読むことそのものではなく、「叡智の映像」の象徴であったものを、自身の努力と工夫によって「立体としての生ける叡智」に復元するまでのプロセスである。との主張が一貫しており、あくまで日々の実践を重んじる姿勢に教育者としての熱意を感じました。

読書の面白さに溺れて、眼前の実行をなおざりにすることなかれ。

食べ物は肉体にとっての栄養であり、読書は精神にとっての栄養である、とは古今東西さまざまな読書論で述べられていますが、著者は、このことを本当に理解している人は少ないと言います。私たちは「近ごろ忙しくて、とても本など読んではいられない」とは言いますが、確かに「近ごろ忙しくて、いっさい食事をしていない」という人は一人もいないはずです。読書は自己確立に不可欠なものだと分かってはいても、人間は、精神における養分の不足をわが身に差し迫った深刻な飢餓感として自覚することはありません。そして無知に甘んじてしまう、という部分に、本当にはっとさせられました。

そして、本書で一番ぐっときた部分、出版のすゝめ。著者は教師はその生涯において、少なくとも三冊の著述をすべき義務があると力説しています。

●二十代後半から三十代前半の実践記録を、三十五歳前後に。●三十代後半から四十代前半の実践記録を、四十五歳前後に。●五十代の後半には、教師生活において最も充実した成果を挙げた時代の記録を、自伝として出版すべし。会社員や銀行員で短歌や俳句をする人は、単なる趣味のためでさえ、自分の歌集や句集の自費出版のために、五年七年とボーナスの積み立てをしているもの。いわんや教師たるものが、生涯に三冊程度の自著を十年一冊の割で刊行する程度のことは当然であろう。こう結ばれた最終章を、思わず居ずまいを正し、深く深く受け止めました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ・読書術 発想法
感想投稿日 : 2012年10月1日
読了日 : 2012年9月17日
本棚登録日 : 2012年9月17日

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