死者たちが孤独な男の下を訪れる。死が生の領域を侵蝕し始める。精一杯生き延びて、崩壊と対峙しようとする努力が挫折しててゆく。
しかし、いつしかそうではない、逆なのだと感じてくる。生きながら内側に死を育んでゆく。
ある日突然に死が迎えにきて生を絶つのではない。死は最初から私の中にあり、それを認めて少しづつ解き放っていくのが生きるということ。
生きつづけることは、死につづけること。
そして、ふと思う。
もはや生者と死者の間に違いなどない。両者共にただ朽ちていくだけだ。
“死が私の記憶と目を奪いとっても、何一つ変わりはしないだろう。そうなっても私の記憶と目は夜と肉体を超えて、過去を思い出し、ものを見つづけるだろう。いつか誰かがここへやってきて、私の記憶と目を死の呪縛から永遠に解き放ってくれるまで、この二つのものはいつまでも死に続けるだろう”
“おそらく今生きているこの夜は、自分が既に死んでいて、そのせいで眠れないだのだということに気づいたあの夜と同じ夜なのだろう。しかしそんなことはもうどうでもいい。 五日だろうが五ヵ月、五年だろうが同じことだ。時があっという間に過ぎ去っていったので、どんなふうに過ぎてゆくのかを見届けることもできなかった。逆に、今夜があの午後以来果てしなく続いている。暗い夜だとしたら、時間など存在しないわけだから、それを、私の心臓の上に振り注ぐ砂のような時間を思い起こす必要などないのだ”
死の床にて追憶と共に自らの肉体が滅んだ先を予言する、その語りに呪縛されたかのように本を置くことができずに一気に読む。
私が主語の独り語りなのに三人称かのような透徹した文章の美しさに引き込まれる。
ポプラを散らし秋の終わりを告げる黄色い雨が、村の街路を、犬の影を、私自身を染めあげていく。そのイメージが喚起する幻視に心が掴まれて、離れない。
- 感想投稿日 : 2024年4月7日
- 読了日 : 2024年4月7日
- 本棚登録日 : 2024年4月6日
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