耳鼻削ぎの日本史 (文春学藝ライブラリー 歴史 34)

著者 :
  • 文藝春秋 (2019年4月10日発売)
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感想 : 6

おもしろい。終わり。あ、終わってしまった。何しろこちとら歴史に関する知識の蓄積が浅いので、ほうほう、そうですか、と読み進むしかない。しかし解説で高野さんが書いている通り、著者の筆運びというか構成のうまさ、流れのうまさはある。ダメなノンフィクションは事実を羅列するばかりで流れがない。グルーヴがないから踊れない。

その点、この本は耳鼻削ぎの持つ意味合いが時代と共にどのような変遷を遂げたか、という軸をしっかり押さえつつ、ちょくちょく興味深いエピソードや史実とその解釈を出してくる。随所で紹介される史実にはこちらの想像力が及ばない部分があるけど、そこはざっと読み飛ばしても大筋はわかる。耳鼻削ぎの実態や、その意味合いの変遷なんて簡単にわかるはずないんだけど、この本の持つグルーヴが生み出す説得力は、読者を躍らせる。へー!知らなかったー!そうなんだー!そういうことだったのかー!と言わざるを得ない。

中世の日本における刑罰としての耳鼻削ぎは、主に女性と僧侶に課せられたものであり、死刑を減刑した場合に適用されることが多かった。一方、戦場での耳鼻削ぎは戦功の証だった。戦国時代に入ると、見せしめの刑罰として男性にも課せられることが多くなった。それが江戸時代に入って戦国の世が終わり、権力基盤が安定すると主に、刑罰としての耳鼻削ぎはなくなっていく。

刑罰が時代と共に変遷した結果として今の刑罰がある訳だし、現代でも話が通じる「耳なし芳一」や芥川龍之介の「鼻」なんかを持ち出してくる。遠い昔の野蛮な習俗と思いがちな耳鼻削ぎを行っていた中世が、自分にも繋がっていることを意識せざるを得ない。そもそも、今の基準で過去の習俗を残酷だと言ってしまうと、その時代を理解しようとするおもしろさを失ってしまうのではないか。補論として指切りの話が追加されているけど、「指切りげんまん」のように、中世から近世、現代へと受け継がれたものがあると思うと興味深くもあるし、ちょっと怖い気もした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年8月29日
読了日 : 2020年8月29日
本棚登録日 : 2020年8月18日

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