同著者の『社会心理学講義』や『責任という虚構』読もうとしたが重かったので、ちょっと寄り道。紆余曲折の末にフランスで社会心理学者として教鞭を執った著者の半生を振り返った本。
異文化の中で培った普遍性を疑う感性から見た世界を綴る。
「文科系学問は役に立つのか」という章の〆の一文が象徴的だった。
「文科系学問が扱う問いには原理的に解が存在しない。そこに人文学の果たす役割がある。何が良いかは誰にも分からないからだ。いつになっても絶対に分からないからだ。(···)技術と同じ意味で文化系学問の意義を量ってはいけない。」
文科系学問の意義は「人間の原理的な限界に気づく」ことにあるいう。
その認知は知識の矛盾により生じるが、一方で知識は世界を疑うことを忘れさせる。文科系学問は絶対的な解がない故に、人をこの認知へと到達させる。ここまで理解して、この著者による今の人文学への批判を読んでみたいと思った。
「海外旅行をして人生観が変わった」とよく聞く体験談は、その感性が自身の文化を擦り合わせた末の「矛盾」によるものか、その土地の文化への「服従」によるものかによって全く違う意味を持つのだろうなとも感じた。
自己内である程度のアイデンティティを確立してはじめて、異文化や他者と触れた時に「矛盾」が生まれる。そうして初めて単体では成立するが共存し得ないロジックの存在を認知することができ、解がない問いの存在を理解する。
昨今の世界からは、その前提意識が抜け落ちているなと思うなどもした。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2022年6月8日
- 読了日 : 2022年6月8日
- 本棚登録日 : 2022年6月8日
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