朗読者 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社 (2000年4月25日発売)
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本棚登録 : 1089
感想 : 132

この小説をどう読めばいいだろう。
この小説で起こった出来事を受け止め、いったい主人公達の身に何が起きたのかを、正確かつ理性的に判断することはできるだろうか。

ハンナは「読み書きができないと知られるのを恐れて」18年の独房生活を送ることになるが、果たしてその恥の概念が、自分を刑務所に留め続けるほど罪深いものであったのだろうか?何故それほどまで長く監獄の中にいることを選択したのか?
彼女はナチス時代とミヒャエルと過ごした時代に、朗読を所望している。これは明らかに知識を欲する行為であり、彼女も身の回りの世界を深く理解したいと感じていた。その後18年間の刑務所暮らしの中でやっと読み書きを覚えた彼女は、ナチスの被害者と看守たちの物語を読み漁った。
私は、ここで彼女に自責の念が生じ、彼女を苛んでいったのではないかと思う。だから監獄の中で居場所が出来そうになると、逃げるように孤独の中に身を置いた。釈放間近になり、ミヒャエルとの新しい居場所が出来る寸前、自ら命を絶った。
何故そこまでストイックな生き方をしたのか?それがナチスの被害者に対する彼女なりの贖罪だったのか?この先の真相は闇の中であり、読む人によって異なる結論に至ると思う。

この本は多くの問を読者に投げかける。ミヒャエルが蜜月の思い出の中で美化した彼女と、ナチスの親衛隊で囚人を監視していた時の彼女は、果たして同一人物と言えたのだろうか?彼女は囚人に対して実際に残酷な仕打ちをしたのだろうか?ホロコーストは、冷酷な軍人が無実のユダヤ人を嬲る行為ではなく、判断力も知性も無い一般人が、戦争という特殊な条件下で麻痺した末に行った、ただの無考えの行動ではないのか?

「あなただったらどうしましたか?」ハンナが法廷で裁判長に投げかけた質問は、この小説の読者にも向けられている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年11月5日
読了日 : 2020年11月3日
本棚登録日 : 2020年11月3日

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