朗読者 (新潮クレスト・ブックス)

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制作 : Bernhard Schlink  松永 美穂 
  • 新潮社 (2000年4月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900182

朗読者 (新潮クレスト・ブックス)の感想・レビュー・書評

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  • ヘッセやマンの作品に顕著であるが、少年が人生の上で経験を積み、やがては大人になって行くまでを描いた「人格形成小説(ビルドゥンクスロマン)」という文学的伝統がドイツにはある。『朗読者』もまた、その構成を借りている。15歳の主人公は気分の悪くなったときに助けてくれた母ほども歳の離れた女性に恋し、関係を持つ。逢う度に彼女は少年に本の朗読をせがみ、いつしかそれが二人の習慣になる。ある日、突然彼女は失踪し、失意の少年は心を開くことをやめ、やがて法学生となる。彼女を再び見たのはナチス時代の罪を裁く裁判の被告席であった。刊行以来5年間で20以上の言語に翻訳され、アメリカでは200万部を越えるベストセラーになったという話題作である。日本でも発売当時、多くの書評に取り上げられたことは記憶に新しい。

    ややもすればセンセーショナルな話になるところを抑制の効いた文体と感情に流されない叙述で淡々と進めていくあたり、作者の並々ならぬ力量を窺わせる。ミステリーでデビューした作家らしく巧みに張られた伏線が、平易な文章と相俟って読者を最後まで引っ張って行くところがベストセラーたる所以でもあろうか。主人公を戦後世代にすることで、強制収容所というテーマの重さに引きずられることなく、あくまでも個人の倫理観の問題にとどめたのも法律の世界に身を置く弁護士としての作者の資質から来ているのだろう。

    全編を通じて主人公の回想視点で語られている。ハンナとの別れ以来傷を負った彼の思惟と行動は外に対して閉じられたかのように見える。15歳の時の体験に彼は捕らわれ、そこから解放されずに歳をとってしまったもののようだ。彼がそこに固着するのは全幅の信頼と愛を傾けていた存在を去らせたのが自分の不誠実な態度であると感じた事によるが、彼女の秘密を知った後でも彼のとる行動は誠実なものとはいえない。彼にはハンナが理解できないからだ。

    ハンナの場合はどうか。未成年を誘惑するような仕種やその後の行動も、文字を知らないことが分かってみれば、蛇に誘惑されて林檎を囓るまでのイブのように無辜で明るい。彼女に翳が差し、暴力的な事態が現れるのはいつも文字が介入してくるときだ。ハンナが彼の前から姿を消すときも、かつて雇われていた会社を辞め収容所の看守になるときも同じである。

    文字を知るまで、ハンナにとって世界は理解を越えていた。自分の力ではどうにもならない現実に翻弄されるように生きていたからだ。だからこそ、裁判長に向かって「あなたならどうしましたか」と、問い返せたのだ。文字を知ることで、かつての自分の行為を今の自分の意識で見つめることにより無辜のハンナは消え、年老いて寄る辺のない罪人が生まれたわけである。牢獄のハンナに朗読したテープを送り続けたミヒャエルの行為は、考えようによっては残酷な行為であり、哲学者の父を持つミヒャエルは、ハンナのいる楽園に悪魔が遣わした蛇だったのかも知れない。ハンナは人間として生きることを得ると同時に死ぬことも得た。

    知らないで犯した行為を果たして罪と言いうるのか。裁かれるのは、その行為を犯すまでに当事者を追い込んだものの方ではないのか。おそらく、いつの時代にあっても問い続けられるテーマである。ナチスという悪を背負い込んだドイツ。貧困ゆえの無知という事態を引き受けた個人。他者を知ろうとすることもなしに一方的な愛を請う恋人。輻輳した主題を絞り込んだ登場人物を通じて展開して見せた点に巧さが際だつ一編である。

  •  学校帰りに気分が悪くなった15歳のミヒャエルを助けてくれたのは、通りがかりの年上の女性。元気になり、母に言われるままにお礼を言いに女性の家に出かけるミヒャエルだったが、いつしか21歳も年上の彼女ハンナに夢中になっていく。
     ハンナとつき合うことで、自信をもち、たくましく成長していくミヒャエル。ハンナもまた、ミヒャエルを愛し、穏やかな時間が流れていく。ミヒャエルが本を朗読し、それをじっと聴くことを何より好んだハンナ。しかし、そのハンナが突然何も告げずにミヒャエルの前から姿を消してしまう。
     数年後、大学生に成長したミヒャエルは、思わぬ場所でハンナと再会する。教授に言われ、ゼミの研究のために公判に出かけた学生と、アウシュビッツの収容所で囚人たちを見殺しにした被告人として…

     
     前半は21歳も年の差のある男女の恋愛、そして後半は再会した2人のその後を…。
     いくらでも言い逃れできるはずなのに、あえて自らの不利な証言をしていくハンナ…過去の姿と重ねながら、ふとその理由に気づいたミヒャエルは、迷い、悩み、苦しみます。そして、考え抜いた彼の決断とは…
     読後は…うまく言葉になりません。ハンナの尊厳を何よりも大切にしたミヒャエルの選択は、ハンナにとってはどうだったのか…。

  • 翻訳は読みにくかったけれど、淡々と流れる心情はわかってなかなかよかった。
    YAとして紹介していいか?という話を聞いて読んだのだけれど・・・
    大人の本だよねぇ・・・
    ナチスとその罪のあたりは若い人に読んでもらいたいけれど。
    映画はどうだったんだろう?R指定じゃなかったの?

  • 「わたしたちは幸福について話しているんじゃなくて、自由と尊厳の話をしているんだよ。幼いときでさえ、君はその違いを知っていたんだ。ママがいつも正しいからといって、それが君の慰めになったわけじゃないんだよ」

    安易に感想をまとめたくない作品。
    読んだ後も自分のまだ言葉に出来ない部分、まだ意識にさえ上らない部分も執念深く考えて暴いていきたい。

  • 数年前に読んだ作品を再読。以前読んだときは作品中の言葉に強く共感したのを憶えている。今回は作品そのものに心打たれた。切ない恋だね。思い出に焼き付いてしまったものは、墓場まで持っていくことになるのでしょうね。歳をかさねて、そんなことがわかるようになった気がした。

  • 15歳の時に出会った年上の女性。抱き合うほかに「本を読んで、坊や」と言われ、数々の本を一緒に読む。なのに訪れた突然の別れ。次に再会した時、彼女はナチスの裁判にかけられていた。

    ハンナが文盲である事は早い段階から分かりました。そして彼女がそれを恥じている事も。なのに、裁判の後、主人公の送った朗読のテープを一生懸命聞きながら、牢獄で文字を覚えた彼女がとてもいとおしいです。

    なのになぜ最後に自殺してしまったのだろう。
    せっかく自由の身になれたかもしれないのに。図書館の近くに家も用意してもらったのに。もしかしたら、主人公と一緒に生きていけたかもしれないのに。

    でも、その「たら、れば」をすべて可能性として考えられるうちにすべての幕を引きたかったのかもしれない。その気持ちも分かる気がします。

  • 初恋は特別なのだと思う。そしてそれが思春期であるならば、日常とは違う見え方をするのかもしれない。そんなことを思いました。
    背景にナチスのユダヤ人迫害があり、単純な恋愛小説とは異質な印象です。罪と愛は対なのかもしれません。

  • 15歳の少年ミヒャエルの初めての切ない恋。
    第一章の恋の部分はかなりあっさり読んでしまいました。

    第二章から引き込まれました。
    裁判でかつての恋人を見るために裁判に通い詰める主人公。
    元恋人が「文盲」であることに気がつくが
    彼女のプライドを優先する。刑期を終えた
    彼女が選択したのは自らの死。

    「あなただったら何をしましたか?」
    「あなただったらどうしましたか?」
    ハンナの問いかけに私は答えられない。

  • ドイツの小説の主人公って、
    ・影が薄い(地味)
    ・頭でっかち(自分の頭の中ばかりでごちゃごちゃ考える)
    ・自尊心が強い(青二才のわりに…)
    …というのが多い気がする。

    この小説も主人公よりハンナの方が印象に残る。
    裁判の場面で、「私はどうすべきだったんでしょうか」と問いかけるところ、このシンプルな質問が胸を刺す。

    人がある状態に置かれたとき、どう行動するかなんて、その場に立った人にしかわからないというのに、それを想像したつもりで他人が裁くって、なんだか変だなぁと思った。

  • 21歳差の恋愛の話、では全然なく。生身の人間、それも憎しみより愛情を感じている相手の罪(と自分の罪)をどう受け止め、裁くか。そんな答えが無く、深淵を覗くような物語でした。さて日本人はどうしてきただろう、と思いました。

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学校の帰りに気分が悪くなった15歳のミヒャエルは、母親のような年の女性ハンナに介抱してもらい、それがきっかけで恋に落ちる。そして彼女の求めに応じて本を朗読して聞かせるようになる。ところがある日、一言の説明もなしに彼女は突然、失踪してしまう。彼女が隠していたいまわしい秘密とは何だったのか…。数々の賛辞に迎えられて、ドイツでの刊行後5年間で、20以上の言語に翻訳され、アメリカでは200万部を超える大ベストセラーになった傑作。

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