- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105901868
作品紹介・あらすじ
振り返ると、そこに忘れ得ぬ「あの日」の色がある。ドイツのベテラン作家の円熟作。年齢を重ねた今だからわかる、あの日の別れへの後悔、そしてその本当の意味を――。男と女、親と子、友だち、隣人。『朗読者』で世界中の読者を魅了したドイツの人気作家が、「人生の秋」を迎えた自らの心象風景にも重ねて、さまざまな人々のあの日への思いを綴る。色調豊かな紅葉の山々を渡り歩くかのような味わいに包まれる短篇集。
感想・レビュー・書評
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味わい深い印象も歳をとったからなのか…
自分を振り返ると、もう終わった事として自分自身の感情に距離を取ったような形の離別が、少しずつ忘れていたけど、ふと思い出させられ…
姉弟の音楽、ペンダントが印象的。
別れを題材とした九つの物語。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この作者の作品はなんだかんだで読んでいるのだけれど、いつもあまりピンと来ない。『朗読者』でさえもそうだった。合わないのかもな。
今回のこれは"老い"が時にコミカルで、なんかちょっと面白かった。
若干ドタバタかなと思う『愛娘』がクスッと笑えてしまって、後味も悪くなく印象に残った。『島で過ごした夏』もありがちな”過ぎた青春の夏”もの?だけれど、最後の母のセリフに思わずジンとしてしまう。
年をとったからこそわかる、しみじみする話が多かった。 -
「人生の秋」を迎えた作者、というドイツの新聞社による表現がとにかく秀逸。老いは誰にも訪れる人生の終末期、と思っていたけど、どうやら老いた人にしか見えない景色があるようだ。秋、とくに冬の寒さを感じ始める晩秋。日本でも紅葉や銀杏がここぞとばかりに色づく季節で、やがてくる厳しい冬を予言しながら燃えるように街や山々を彩っている。芽吹いたばかりの眩しい緑よりも、木枯らしに映える色彩のほうが、人々の心を打つこともある。若かった自分のいくつかの過ちだったり、言えなかった言葉や、言わなかったことにできない言葉、もう戻らない日々のことを、降り積もった時間が美しく見せる。それは竹が長い時間をかけて飴色になるような、もしくは革がしっとりと馴染むような好ましい経年変化なのか、それともただの幻想なのか?
人生に訪れるいくつかの「別れ」が、それらと登場人物を向き合わせる過程の描写たちがとにかく丁寧で、物語が短編で終わるのがもったいない、と思わされてしまう。シュリンクの世界観と同期しているかのような綺麗な日本語訳に惚れ惚れとしながら、いつまでも読んでいたいという気にさせてくれる。読むほどに、歳をとっても人間の(少なくとも男性というものの)頭の中は大きく変わらないらしいということも興味深い。おそらく何人か、シュリンク本人を題材にしているんじゃないかという登場人物に好印象を抱く。だからこそ今でしか書けなかったのだろうなと思う小説。老いと若さ、出会いと別れ(もしくは自然消滅)、生と死、恋と愛……さまざまな「状態と過程」が人生に付加する豊かさに思いを馳せる。『姉弟の音楽』がかなり好き。 -
年を重ねたことでわかってきた若い頃の気持ち、過ちだったり思い上がりだったり…。様々なシチュエーションの短編だが、それぞれが思い返して初めて気づいた事を語っている。
シュリンクは、良い文章を書く人だなぁ。 -
老年の心境を綴る短編集。主人公たちが「うじうじ」しすぎじゃない?過去の恋人を引きずりすぎ。70歳くらいの老年になっても自分に性的魅力があると思うところなど、作者の願望の反映だし、アンナとのピクニックや記念日には若い女性にアピール力があるとなっていて気持ち悪いまである。いつまでも若い時の恋人やらを反芻している感覚は男性ならではではないかと思ったが、女性を主人公にした作品も元夫を引きずっている話だった。やれやれ。
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感想。ベルンハルト・シュリンクは「朗読者」の著者。そんな事忘れていたけれど。9つの短編集なんだけれどどの話も年老いた人々が何かしらの「別れ」に遭遇した時の話。亡くなった人に対するもの、随分昔に別れた恋人にまた出会うもの、ご近所の幼い頃から見守り続けていた少女の死にで会うもの。そんな別れの時に脳裏に浮かぶのは思い出で、その思い出も明るさがあるだけではなく、後ろめたさや自己欺瞞、焦燥、そんな向き合いたくないものをちょっぴり混ぜ合わせながらつらつらと脳は過去を浮かび上がらせる。そんな別れの一つ一つが身に染みるのは私もそんな歳に近づいていっているのがわかっているからなのだろう。
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年老いた男たちの振る舞いに、少しギョッとした話もあった。枯れきっていてもおかしくないような年齢の男たちの心を思いがけず覗いてしまったような、ヒヤリとするような気持ちに。
もう少し私自身が歳を重ねたら味わいも変わるんだろうか。
難しいテーマも多いが、それぞれの別れの受け取り方や傷を、読者も受け取って自分なりに味わえる、短編ならではの余韻も読み心地も好きだった。
訳も素晴らしかった。