申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。

  • 大和書房 (2014年3月26日発売)
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【感想】
「こんなにたくさんのビジネスモデル、全部使うの?」

ビジネスモデルについての研修を受けたことがある人ならば、誰でも一度はそう思うだろう。私も新入社員のとき同じ気持ちを味わった。羅列された数式やマトリクスが効果的そうなのは分かったが、いったい「いつ」「どの場面で」「なんのために」使えばいいのか、その研修では一切教えてくれなかった。

本書は、コンサル業に従事していた筆者が、直面した課題に対して「いかにコンサルの手法が用をなさなかったか」を暴露するものである。自身が経験したクライアントとのやりとり、勤めていた会社への不満、「ビジネスモデル」自体への懐疑など、腹の内から出てきた秘密情報がまざまざと描かれ、暴露本を読んでいるような痛快な面白さがあった。

会社の中核に位置する人間は、企業戦略を策定する難しさを知っている。自社の業績を予想することですら困難なのに、業界のすべてのプレイヤー――サプライヤー、新規参入業者、既存業者、顧客など――の動向を把握することなんて不可能だ。
それなのに、行きづまったときは何故かコンサルに頼ってしまう。企業に一番詳しい現場の人間を差し置いて、分析のプロに「データ収集と立案」を任せれば、企業にとって最適な戦略が作れるのだろうか?

筆者が言うには「NO」だ。コンサルは予言者でも万能薬でもない。クライアントの協力者以前に、お金を儲けようとする一企業だ。
コンサルはビジネスモデルの再生産によって利益を得ている。クライアントを言いくるめて高価なソフトを導入させ、必要もないのにテクニカルな手法を使い、問題を複雑にしたがる。彼らのペテンに泣きを見た依頼主は無数に存在する。

とはいっても、筆者はコンサルを使うなと言っているわけではない。
「コンサルティングにおいて重要なのは、方法論やツールではなく対話である」
そう筆者は言う。対話によって社員が結束して動けば、それは成功確率の高いプロジェクトになる。コンサルの役割は対話までのお手伝いをすることなのだ。

この考えは「人材の確保」といったことにも繋がるだろう。
会社にDXを取り入れる際、専門人材を雇うことも一つの手だが、DXの大部分を数人に任せきりにしてしまっていては、会社の成長はその社員の働きしだいになってしまう。
一方、社員一人ひとりがDXを自分の仕事としてとらえれば、デジタルスキルを「少し」身に着けるだけで、相乗効果が生まれていく。社員全員が同じビジョンと同じスキルを持つようになり、ちょっとやそっとでは倒れない組織ができあがる。

ただし、両者は時間間隔の違いがあるため、そう簡単に実現できるものでもない。
コンサルはいわば即効薬だ。業績に陰りが見えたので、プロを雇って短期間で答えを出す。それに比べて、社員一人ひとりを「その気にさせる」のは遅効薬である。業績が安定しているときから人材育成に励み、きたるべき荒波にも負けない組織を作る。

結局のところ、普段からコツコツやっている会社が強いのだ。いざとなってから切り札を追い求めても遅い。チーム性をないがしろにしてきた会社は、ピンチになるべくしてなっている。前者はコンサルが介入しても上手く行き、後者はコンサルの言ったことを実行しても立て直しが効かない。
とはいっても、前者のような会社はそもそもコンサルを必要としない。コンサルを頼った結果が、「コンサルに頼らなくてもいいよう普段から準備しておけ」というアドバイスに帰結するのは、なんとも悲しいことである。


【本書のまとめ】
企業経営の専門家や経営コンサルティングファームのせいで、ビジネスは論理的なものであり、モデルや理論に従えば成功への道筋が示されると信じられてきた。しかし、期待していたような成果は得られない。ビジネスは理屈通りには行かないからだ。
ビジネスにおける行き詰まりを打破するのは、従業員同士で緊密な関係を築くことであり、それに適っていれば、稚拙な手法であろうときっとうまくいく。
コンサルティングにおいて重要なのは方法論やツールではなく「対話」である。クライアント企業は、経営をコンサルタント任せにせず、自分達でもっとちゃんと考えるべきなのだ。


【本書の概要】
1 将来の予測なんて誰にもできない
戦略策定プロジェクトが厄介なのは、将来を予測しなければならないことだ。
戦略策定は、今後の経済状況や、業界の変化、競合他社の動向や、顧客のニーズを予測するのが前提だが、それを完璧にこなせる人間などいない。

「競争戦略」の祖といえばマイケル・ポーターであるが、彼の本に出てくる「手本」だった企業の半数は凋落している。ポーターの本は製造業を重視しているが、2014年現在の主要な産業は医療関連業、小売業、金融業である。業界の変化を見通し、将来を予測するのがいかに難しいかがわかるだろう。

コンサルとして複数のプロジェクトに関わってきた筆者が考える、「戦略の開発と実行」の手順は、次のとおりだ。
①将来を予測する。
②予測にもとづき、大胆なストレッチ目標を設定する。
③周囲の人々を説得する。その目標にはとくに関係のない、単なる月給取りである一般の従業員らも努力するように仕向ける。
④目標達成に向けて邁進する。
⑤成功を祝う。

こんなこと、誰が実現可能だと思うのだろうか?

問題は、人々が「戦略計画=解決策」だと信じてきたことにある。ほんとうは、計画自体にほとんど価値はなく、計画を立てる過程にこそ価値があるのだ。
業界の動向や経済シナリオ、競合企業の強みと弱み、消費者の声などをしっかりと把握することで、洞察と知恵をもって意思決定を行うことができる。それをコンサルに丸投げしていては、あとに残るのは大量の報告書だけだ。
結局、大きなチャンスを掴むには、企業の自己発見に、できる限り多くの従業員を巻き込む必要があるのだ。あらゆる情報を全社で共有し、意思決定を行うための基盤を提供することこそ、本来の戦略開発である。


2 最適化プロセスは机上の空論
統計データにもとづく管理メソッドや、無駄に高価な生産管理システムをいくつも導入したが、導入する企業によって前提条件が違うため、なんの役にも立たなかった。
そんな中、筆者が導入した手法でうまく行ったのは「ブラウンペーパー」である。これは、業務プロセスの全関係者を集め、現行の業務プロセスについてブレインストーミングし、アイデアをふせんで貼り付けるだけのアナログ手法だった。

そんなアナログな手法で、クライアントとクライアントの取引先の話し合いをセッティングし、関係改善を行なった筆者だったが、自社のコンサルチームが新たに派遣され、「ツールを使って分析しろ」と新上司から怒られる。食い下がった筆者はプロジェクトから外されてしまう。その後プロジェクトは大失敗し、クライアントは別企業に買収された。

この問題の原因は、業務プロセスと人間を切り離して考えていることである。同時に、ツールそのものを解決策と勘違いしていることである。関係者全員で取り組みもせずに、「ビジネスの問題を解決できる」と約束するツールや方法論やプログラムは、ことごとく失敗する。


3 数値目標が組織を振り回す
ノルマやインセンティブ、カスケード型業績評価指標を使って、目標を数値化する会社は多い。しかし、実行する人間が、目標に到達するためにペテンを行うことがある。歩合制を達成するためのねつ造、改ざん、不必要な修理を行う事例がいくつも確認されている。
そうした極端な例はまれだが、数値評価を絶対視するあまり、会計や財務報告に細工をする――行動を数値に合わせる――行為は広く横行していると言えるだろう。
(例)
・ノルマ達成のために、四半期末に近くなると値引きをして利益率を下げる営業部門
・在庫がだぶついたときよりも在庫切れを起こしたときに処罰を受けるため、注文しすぎて在庫を恒常的に抱えてしまう倉庫部門
・生産量を重視するあまり、できるかぎりたくさんの製品を生産してしまう生産部門

数々の指標の導入で業務管理項目が増え、本来の目標が短期的な別の目標にすり替わってしまう。
インセンティブ報酬や賞罰は、指標からは切り話すべきなのだ。


4 業績管理システムで士気が下がる
業績給制度の目的は、すべての従業員を全社目標に集中させ、組織全体で戦略を実行することであるはずが、実際には、評価項目の策定とそれに必要なデータをかき集める仕事によって、事務作業が膨大になり、戦略を実行するどころではなくなる。
そもそも、全ての業務がSMART目標の形に当てはまるわけではないのに、一律に評価することなど不可能だ。そしておまけに、評価する側が何に多く点をつけるかは、人によって変わる。

要は、「SMART目標」や「コンピテンシー項目」を使っていれば評価が客観的になると思われているが、初めから「客観的な評価」なんて存在しないのだ。
社員の業績は業績考課によって向上などせず、逆に社員の熱意をくじいていく。


5 マネジメントモデルなんていらない
世の中には数千数百のマネジメントモデルがあるが、どの会社も優れたマネジャーを抱えていると胸を張っていえるところは少ない。
筆者の体験上、結局は部下の事が好きで、みんなとの関係が上手く行き、力を合わせて頑張ろうとする雰囲気がある部署は部下も育つ。
筆者の経験則から言う「役に立つマネジメント」は次の通りだ。
①気にかけていることを態度で示す
②伝わるように伝える
③臨機応変に、柔軟に、すばやく対応する
④先手を打つ
要は、「優れたマネジメントスキルとは、良い関係を築くためのスキル」である。その一言につきる。


6 人材開発プログラムのウソ
人にABCの成績をつけることは悪影響をもたらす。
業績評価制度を採用している会社はたいてい、Aランクの社員を昇進させ、Cランクの社員を据え置きにして向上を促す、という戦略を取るが、例えAランクでも、全員が新しい仕事を再度完璧にこなせるわけではない。業績による昇進を繰り返す結果、「全員がBランク化」してしまう。

筆者の経験によれば、業績が悪いのは能力よりも「環境」の影響が大きい。業績の問題のほとんどは、職務に対する適性が欠けているか、上司とうまくいっていないか、会社のカルチャーに合わないせいだ。会社は社員に自由な異動を認め、職務適性のある部署を見つけるサポートをするべきだ。


7 リーダーになれるチェックリストなんてない
リーダーシップについて書かれた本を読んでみると、リーダーに必要とされるスキルは見事にバラバラである。ある本では礼儀正しさと言い、ある本では何かに夢中になれる才能と言い、ある本では自己実現能力と言い……。

結局のところ、優れたリーダーの特性など誰にもわかっていないのだ。
何十ものスキルを一定のレベルまで身に着けることを全社員に要求して、研修参加を強いるのは時間の無駄である。ひとりで何もかもできるようになる必要はなく、お互いの長所を生かしながら短所を補いあえばよい。


8 コンサル頼みから抜け出すには
筆者が考える、「よいプログラム」は次のとおりだ。
①社員同士の交流を改善する
②判断力を強化したり、考え方を広げたりする(ツールをただ使うだけで終わってないか)
③社員が、生活を楽しめる環境をつくる
④顧客の生活を豊かにする

ここで注意してほしいのが、筆者は「コンサルタントは雇わないほうがいい」と言っているわけではない。雇うべきケースと雇わないほうがいいケースがあるということだ。

雇うべきケース
・自社にはない専門知識や業務経験が必要
・会社の組織から中立な立場での意見が聞きたい
・プロジェクトを完了させる要員が足りないので、手助けがほしい
雇わないほうがいいケース
・自分ではやりたくないのでコンサルタントにやってほしい
・社内で支持が得られないので、自分の意見を強めるプロの意見が欲しい
・組織が上手く機能しないので、外部の人間に立て直してほしい

コンサルティングにおいて重要なのは、方法論やツールではなく「対話」である。クライアント企業は経営をコンサルタント任せにせず、自分達でもっとちゃんと考えるべきなのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年3月18日
読了日 : 2021年3月11日
本棚登録日 : 2021年3月11日

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