学校に行けない子どもたちが「鏡の世界」に集められ、互いに親睦を深めていく。願いを叶える鍵をともに探しながら成長していく彼女たちは、現実世界の交友関係でも徐々に突破口を見つけ出していく。
適度なミステリー、山あり谷ありのシナリオ、どんでん返し。これでもかと要素が詰まった濃密な一冊だった。
この本は少年少女が抱える「闇」を非常にリアルに描いており、読んでいて胸が締め付けられるようだった。
彼らに共通する悩みは、いじめなどによる「学校への不適応」であるが、それに直面した際の反応が非常に生生しい。知り合いに会うかもしれないため道を歩きたくない、人がたくさんいる場所を避けて行動したい。そう思って彼女たちは世間から隠れるように生活している。そして、知り合いに遭遇した後の反応もなんともリアルだ。動悸とパニックで思考が停止し、逃げるように保健室に駆け込む。誰もいない場所で、上手く行かなかった自分を責め、自己嫌悪してしまう……。
だが、そんな子どもたちが寄り添いあうようにして、お互いの心のうちを知っていく描写の鮮やかさが、この本が傑作たるゆえんなのだと思った。
例えば、みんなで現実の中学校の保健室に集まろうと決起する場面。普段空想の世界で対面している彼らが、初めて現実と向き合おうと決心する。「学校に行く」という行為を前に誰しもが重苦しい気持ちになるが、それを振り切って、信じる仲間のために足を踏み出す。
その描写がたまらなく愛おしく、思わず「がんばれ!」と応援してしまった。
そうした少年少女の成長を、ページをめくりながら追体験していく。終盤にいくにつれて畳みかけるようにテンポが早くなり、読者を彼女たちと一緒にクライマックスへと連れて行ってくれる。
なるほど、これが多くの人に愛されている理由なのだ、と膝を打ってしまった。
ミステリーと青春小説のみごとな調和。気になっているかたはぜひ読んでほしい。
- 感想投稿日 : 2021年5月29日
- 読了日 : 2021年5月24日
- 本棚登録日 : 2021年5月24日
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