阿部一族・舞姫 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.42
  • (71)
  • (131)
  • (295)
  • (38)
  • (5)
本棚登録 : 2141
感想 : 121
4

舞姫を読みたくて。
舞姫だけ読んだ感想です。

舞姫、高校の現代文の教科書に載っていたなぁ。
「これのどこが現代だ!」と、当時のわたしは思ったものですが、その感想はアラフォーになった今でも同じです。
英文を読むときと同じで、全体を通して読んでなんとなく内容をつかむ、というのが精一杯。
翻訳家でもない私が、英文を一文一文訳そうとするとドツボにはまるあの感覚。全体を通してストーリーをすくいとることができればOK、という低いハードルで読むべき。
「内容を理解できるか」と、いう点では、むしろ英語で書かれたほうがわかるのでは。

肝心の内容・感想について。
堪え性のない私は、もう二度と読むことはないだろうと思うので、自分の備忘録として記しておく。

日本からドイツに駐在・留学している主人公・豊太郎。
日本にいる母からも、上司(上官)からも期待され、期待に沿うように生きようと努力してきた。
豊太郎は、エリスという名の現地の少女と出逢う。その少女は、母と二人で暮らしており、貧しく、劇場の踊り子として働いている。
出逢ったときのエリスの描写が、とても美しい。主人公は道端で、エリスが声を殺して泣いている姿を見るのだけど、主人公がエリスを見て美しいと惹かれたのだろうことがひしひしと伝わってくるのだ。
主人公が思わずエリスに声をかけ、僅かな援助をし、二人の交流が始まる。
貧困ゆえに十分な教育を受けてこなかったエリスに、書や文字を教える豊太郎。
他方で、エリスとの愛に溺れる豊太郎自身の学び、生活は荒んでいく。
そんななかでエリスが懐妊。
豊太郎は、友人相沢から、エリスと別れるように勧められる。このときの相沢の言葉ば妙に詳しく描写されているのが、主人公のズルさ、言い訳に感じた。
「他者に相談するとき、相談者の中ですでに答えは出ていて、期待通りの答えをもらいたがっている」とはよく言われているが、そういう感じなのかな、と。
エリスの愛は失いたくない。でもこのままドイツで自堕落な貧しい生活を続ける覚悟もない。自分では決められない・・・そんな豊太郎の気持ちを汲むように、背中を押す相沢。
宙ぶらりんなとき、相沢が豊太郎に「君のような優秀な男が、いつまで一人の少女に引き止められているのだ。もったいない。俺が上官との間を取り持ってまた復帰できるように取り持つから、さっさと彼女とは別れろよ」なんて言われたら、背中押されるというか、豊太郎には「相沢が勝手に話をすすめ、俺は流された」という言い訳もたつ(エリスからすれば、そんな言い訳はたたないんだけど、あくまでも豊太郎本人の心持ちとして罪悪感が薄れる)。
結果的に、この物語は、「相沢のせいでエリスはおかしくなりました、相沢は良き友ですが、私は相沢に対して憎しみを持ってます」という主人公の感想(言い訳?)で終わっている。
「最後に言いたかったこと、これかよー?!」と、びっくりしたよ。
高校時代の教科書では、抜粋した文章が載せてあったから、どこが最後なのかまで意識していなかったからな。まさかこんな最後の一文とは。
あくまでも、豊太郎自身は最後までなんも悪いことしていない、という認識なのね・・・。

相沢こそ、何もおかしなことや悪いことはしていないんだけどさ。
どうしてこういう時代の小説家さんの自伝的小説って、悪くない友を悪者にするのだろうか(人間失格とか)。
誰かを悪者にして憎まないと耐えられない繊細な心の持ち主が、当時は小説家になっていたということだろうか。
そう思うと、今の小説家さんたちは大人というか、フラットな人が多いなぁと思う。

少し前に読んだ「中野のお父さん」に、「現代の価値観を当時(俳句が読まれた当時)の価値観に当てはめるのは無粋だ」ということが書いてあった。
「舞姫」についても、令和の私の価値観を、舞姫の時代(明治時代)に当てはめるのは、とっても無粋なことだろう。
男尊女卑の時代。日本からドイツに留学するほどの秀才男子が日本でどれだけ期待され価値があるものとされていたのか、現代では想像もつかないほどだ。
ただ、やはりエリスはかわいそうだと私は思う。
現代なら、「私は分不相応で、もともと私が一緒になれるような相手じゃない」みたいに思うのもしれないけど、エリスはきっと、学もなく教養もなく、生きることに必死で、恋愛については子どものように純粋な少女だったのだろうと思う。実際に16,7歳だろう。
そのような少女に、分不相応だと自覚しろというのは無理があるだろう。

現代的価値観の私としては、どんなことがあっても、エリスには赤ちゃんとともに力強く生きていってほしいと思う。
そして、現代においても、10代、20代の若い女性が精神的に不安定になる原因は、男絡みであることが圧倒的に多い、ということ。
明治時代(おそらく明治時代よりもっと前から)から変わらぬその営みが、女性として悲しくもありました。
しかし一方で、若者にアンケートをとると「恋愛、結婚に興味がないです」と回答する割合が増えているらしい。それって、ある意味人類が進化しているのかな、と思ったりもする。

それと、「舞姫」という題名のわりに、エリスが踊っている姿のほぼ描写はないよね。私が読み落としたのかな。
高校生の私は、「舞姫って、劇場で踊る美しい現地の少女の姿を見て、青年が恋に落ちる話」と思っていたのだけど、それは違ったわけだ。
実際に二人が出逢ったのは道端だし。エリスは踊ってたわけではなく門によりかかって泣いてただけだし。
ただ、もしこの本が「舞姫」という題名じゃなかったら明治時代から現在まで読み継がれる名作にはなってないんじゃないかと思う。
それくらい「舞姫」という言葉は、美しくて、人の興味をそそり、耽美的で心を惹きつける力がある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史・古典
感想投稿日 : 2022年11月23日
読了日 : 2022年11月23日
本棚登録日 : 2022年11月18日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする