ぼくは「はっぴいえんど」の解散した72年に生まれ,本書が単行本として出版された75年には,フィラデルフィアに住んでいた。著者によると,アメリカの「いくつかの都市にはそれぞれの特徴を持ったソウルが在」る(236頁)。そしてフィラデルフィアは,メンフィス,ロスアンジェルス,デトロイト,シカゴ,ニューヨークとともに,「都市のサウンドを確立させてい」た(236頁)。いわば,それぞれの都市には,それぞれの音があり,フィラデルフィアには「フィラデルフィアの音」(227頁)があるという。
ぼくがフィラデルフィアに住んでいたのは3歳から5歳までだったから,どの音がその音なのかは区別できないままに育った。ぼくにとってみれば,セサミストリートも立派な「フィラデルフィアの音」だった。ただ,あの時テレビやラジオ,あるいはスーパーマーケットのBGMから聞こえてきた音楽や,街角において黒人たちの呟く歌声は,まさしく著者の言う「フィラデルフィアの音」だったのかもしれない。だから,ぼくの体には無意識ながら,アメリカの都市のリズムが染みついていたことになる。やがて,ぼくが8歳で迎えた80年代に,著者が詞を表し,著者の親友たちが手掛けた曲を聴くにつけ,そのような幼児体験が掘り返されたのだと思われる。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
音楽
- 感想投稿日 : 2017年2月22日
- 読了日 : 2017年2月19日
- 本棚登録日 : 2017年2月12日
みんなの感想をみる