しゃばけ しゃばけシリーズ 1 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2004年3月28日発売)
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畠中恵「しゃばけシリーズ」1作目(2001年12月単行本、2004年4月文庫本)。
20年も続いてる人気のシリーズと聞いて、家族の持っている本を手に取ってみた。舞台が現代でなく、江戸時代が舞台の時代ものも初めてで、ファンタジーものも初めてだ。リアル感の無い物語は自分には合わないと思っていたが、江戸ファンタジーなのに不思議と現実の社会と錯覚するぐらいに物語に入り込んでしまった。ひょっとしたら江戸時代ではあり得たかもしれないと思うくらいで、気持ちが和み、ワクワクし、面白かった。

主人公は、廻船問屋「長崎屋」の若旦那、一太郎17歳だ。病弱でちょっと外出しただけで寝込んでしまうほどだ。しかし頭が良く、優しい心を持ち、物怖じしない強さを持ち合わせている。父親は藤兵衛52歳、元長崎屋手代の婿養子だ。人望も有り、頭も切れ、仕事も出来るが、人が良く少しトンチンカンなほど天然なところがある。母親はおたえ、江戸小町と言われた美人ながら少し浮世離れしたところもあるが、いつも一太郎の身体を心配している。祖父伊三郎と祖母おぎんの一人娘で、おぎんはまさかの妖で皮衣という3000歳の大妖だ。即ち一太郎は妖と人間のクオーターということになるがおたえも一太郎も人間であり、歳も取り死にもする。伊三郎は既に他界し、おぎんは訳あって一太郎誕生時から荼枳尼天という神に仕えていて、生きてはいるが同じ世にはいない。
妖は普通の人間には見えないが、一太郎やおたえには見える。勿論藤兵衛には見えず、義母のおぎんが妖であることすら知らない。

一太郎を5歳の時から支えて来たのが手代の仁吉と佐助で、二人ともおぎんが伊三郎を介して差し向けた妖である。仁吉は万物を知ると言われる白沢、佐助は強大な腕力を持つと言われる犬神だ。この時の二人は10歳の容姿で一太郎より5歳上ということになっている。妖が人間に化した姿は普通の人間にも見えるらしい。

また一太郎には松之助という腹違いの兄がいる。藤兵衛の間抜けな的外れな勘違いの結果なのだが、色々あって松之助は赤ん坊の時に母親に連れられて藤兵衛の元を離れた。その母親も病気で他界し、義理の父親にも疎んじられて、「東屋」という桶屋に奉公に出ている。長崎屋にとって松之助の存在を語るのはタブーとなっているようだが、一太郎は密かに逢いたがっていた。

そして一太郎には栄吉という1歳年上の幼馴染がいる。「三春屋」とういう小さな菓子屋の跡取り息子でお春という15歳の妹がいて、一太郎のことを好いているようだ。一太郎は妹としてくらいにしか思っていないようだが…。
栄吉は一太郎にとって、親友でもあり、何でも親身になって話せる数少ない友達だ。唯一の欠点は菓子屋の跡取り息子でありながら、菓子の命でもある餡子が上手く作れなく作る菓子が不味いということだった。

その他よく「長崎屋」に立ち寄って一太郎に世の騒ぎごとを話したりして、仁吉から菓子や袖の下を貰っていくのが岡っ引きの日限の親分こと清七親分で、一太郎の貴重な情報源だ。

そして妖封じで有名な上野「広徳寺」の高僧の寛朝さんは人間でありながら妖が見えて、一太郎は妖封じの『護符』を買ったり、寄進したりして懇意にしている。同じく妖封じで高名な「東叡山 寛永寺」の高僧の寿真さんからは妖が切れる『守り刀』を手に入れる。今回その護符と守り刀が大きな役目をすることになる。

おぎん、仁吉、佐助の他に登場する主な妖は、小さな小鬼の鳴家(やなり)、古い屏風が付喪神になった屏風のぞき、鈴の付喪神の鈴彦姫、貧乏臭い坊主の格好をした妖の野寺坊、振袖を着た小姓姿の妖の獺、老婆の姿をした妖の蛇骨婆、みんな一太郎の手足となって動く情報網だ。そしておぎんと昔からの知り合いの妖の見越の入道、仁吉と佐助も萎縮する大妖だ。荼枳尼天に仕えているおぎんとの連絡係もしている。
以上が今回登場する長崎屋に関係する主な妖で、一太郎の味方となる妖だ。

そして味方ではない妖が絡んだ殺人事件に一太郎が挑む。
4件の奇妙な連続殺人事件が江戸の町に起こる。1件目の被害者は大工の棟梁、2〜4件目はいづれも薬種屋の主人や若主人。下手人は4件共別人で3人の下手人が捕えられた。いづれの下手人も薬を求めていた。そして求めた薬が無いと判ると殺害していた。
1件目の大工殺しの下手人も大工の棟梁を殺した後、長崎屋に薬を求めてやって来て、無いと判ると襲いかかって来たのだが、逆に捕らえられたのだ。求めた薬は「命をあがなう奴」と言っていた。どうも4件とも下手人は違えども求めていた薬は同じようだ。そして強い匂いがするらしい。
一太郎は4件とも同じ妖が4人の人間にとり憑いて操ったと推理する。そして鍵は最初の事件で大工道具が盗まれていたことだ。そしてその中に壊れた古い墨壺があった。道具も100年も経つと付喪神になると言う。その墨壺は付喪神になる寸前に壊れたかも知れなかった。
どうしても付喪神になりたい墨壺の怨念、死者の魂を蘇らせる薬、そして一太郎がこの世に生を受けた経緯、この3つのジグソーパズルがはまった時全ての謎が解ける。一太郎は付喪神になりそこなった墨壺に護符と守り刀を持って戦いを挑む。
一太郎を守る役目の仁吉と佐助が逆に一太郎に助けられることになるのも愉快だ。

物語は連続殺人事件の謎解きを中心に進行するが、同時に一太郎の周りの人間と妖との関係を知ることに重点が置かれているのだろう。そして江戸ファンタジーの世界にようこそと言われているような気がする。
病弱で床に伏せている時の方が長い一太郎だが、聡明で勇敢で物怖じせず、そして気遣いの出来る優しい若旦那だ。人も妖も一太郎のためには力を貸すのに惜しまない。これからどんな展開が待っているのか楽しみだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年9月16日
読了日 : 2021年9月12日
本棚登録日 : 2021年9月7日

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