終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか? (3) (角川スニーカー文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店 (2015年7月1日発売)
4.04
  • (15)
  • (22)
  • (13)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 297
感想 : 14
5

この物語は何と呼んだら良いのだろう……。単純にクトリが陥った境遇だけを見ればバッドエンドとしか見えない。だけど、クトリの発言やラーントルクの言葉を借りるならこの物語はハッピーエンドということになる
でも、ハッピーエンドであるならばもっと喜ばしい気分になれるはずなのに、全くそんな気になれない。
本当にこの物語は何と呼んだら良いのだろう……


本編序盤ではヴィレムに依るクトリおかえりバターケーキが描かれる。そういえば、クトリ出撃って第一巻の出来事で帰還は第二巻だけど、なんやかんやあってきちんとおかえり、ただいまって言えてなかったんだっけ
その時間の分だけ、2つの言葉の背景にあるものはとても重い意味を持つようになった。ヴィレムは以前帰ってくると約束したアルマリアの元へ帰ってくることは出来なかった。クトリは生還率が5割程度しかなかった作戦、戻ってくるまで半月以上かかり、何よりもヴィレムの傍に帰るためにあまりに大きすぎる代償を支払ってしまった
本当にこの二人が交わす言葉はどんな些細なものであっても、大きな感情を伴うようになってしまったね

そしてその後から少しずつ始まるのはクトリという少女の崩壊
ヴィレムの元へ帰ってくるためにはきっと他の道なんて無くて、また恋する少女にとっては迷うような選択肢では無かった筈で。だというのにその時の選択によって生じた侵食が少しずつクトリの記憶を蝕んでいく様子は本当に恐ろしい。同時に悲しくなる

ここからのクトリの覚悟には目を瞠るものがある
以前、クトリはテイメレを倒すために自分の命を諦める「覚悟」をした。けれど、ヴィレムとの出会いによって帰ってくる「覚悟」を抱いた
そして今度は残された全ての時間をクトリ・ノタ・セニオリスとして生き切る「覚悟」をしたのだろうね。だからその時間においてもう獣と戦うためのセニオリスは必要ない、また先輩から受け継いだブローチを持っていく必要もない
うん、正直、クトリの机の上にあのブローチが置かれたままになっている描写を見た瞬間は肝が冷えるようだった。そこからクトリの「覚悟」や残された時間が透けて見えるようだったから
そしてそれを最終的にティアットが引き継いだ意味、今後ティアットに訪れる運命が気にかかってしまう


クトリと過ごす時間の中で聡いヴィレムはやっぱりクトリが隠そうとした崩壊に気づいてしまう。更にはスウォンが秘そうとした獣の真実にも気づいてしまう
これらの事実は下手をすれば再びヴィレムを壊しかねない程の事実だったはずだ。それでも、ヴィレムが辛うじて平静を保てたのはそこにクトリが居たからなんだろうな
クトリに残された時間が少ないと気づいて、昔守りたいと思ったものはもう守ることは出来なくて。ならヴィレムは自身が幸せになる道を模索しつつ、誰かを幸せにしようとするならばここでクトリに求婚するのはそれ程不思議な選択肢ではない。むしろあれだけの事実を知ってもクトリとの結婚を決意できるのがヴィレムという人間の凄さなのだろうね
……ただ、その答えをクトリが返すことはなかったのだけど

そこから始まるのは絶望の連続。それも突然降って湧いたのではなく、テイメレのように深く地中に根を張っていたもの。ふとした拍子に地上に溢れ返るような絶望

クトリの最後って読者からしたら、どう見たって不幸なんだけど、そもそもの黄金妖精が辿らざるを得ない運命、以前のセニオリスの持ち主であるリーリァの悲痛な覚悟、そしてカラー絵で描かれたクトリの心情。それらを併せて考えれば、ヴィレムと一緒にいると誓えたり、ヴィレムを好きだと思えたり、幸せにしてやると言って貰えた。それらがあるのなら認めたくないけど、クトリはどうしようもないほどの幸せ者だったということになってしまうのだろうか
だからクトリは最後の最後、自我の限界においてヴィレムに伝える言葉は求婚への返事でも、改めての告白でもなく、感謝の言葉になったのだろうね
そこにある背景はとても悲しくなるものだけど、それでも感謝の言葉を伝えられるほどになれたクトリは幸せ者になってしまうのだろうな

そうして、ある意味綺麗に終わってしまったラストの後が問題だ
あれってどういうことだ……?過去に戻ってる?もしかしてそこにクトリをもっと幸せにする何かが隠されている?それとも更なる絶望の始まりになる?
一体全体何が始まろうとしているのか全く予想できないよ

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ライトノベル
感想投稿日 : 2019年5月4日
読了日 : 2019年5月3日
本棚登録日 : 2019年4月27日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする