直木賞受賞第一作!という帯がついているが、『蜜蜂と遠雷』で初めて恩田作品を読んだ人が、本作を読んだらどう感じるだろうか。
ファンには言うまでもないが、恩田陸さんの作品には、本屋大賞受賞作『夜のピクニック』など、現実世界の青春小説も多いのだが、本作のように、何だかよくわからないけどスケールが大きいファンタジーも多い。どちらも恩田陸なのである。
失礼ながら、青春小説が万人受けしやすい一方、ファンタジー系は大風呂敷を広げた末にフィニッシュで尻すぼみという作品が多い。本作もまた、ご多分に漏れず…というのが、正直な感想である。「らしい」なあと思うのは、ファンだけだろう。
日本各地の旧軍都に生じる、時空の裂け目。人知れず「グンカ」と戦い、裂け目を縫い合わせてきた一族がいた。手頃な長さの本作は、彼ら一族にスポットを当てた連作短編集である。映像的スケールの大きさは、誰もが認めるだろう。
謎の一族を描いた恩田作品といえば、「常野」シリーズが真っ先に思い浮かぶ。新刊が10年以上途絶え、全貌がさっぱり見えない常野シリーズと比べれば、情報量は多い印象を受けるが、大風呂敷が広がったままなのに変わりはない。
一つ注目されるのは、近年のきな臭い世界情勢を意識させる点だろうか。日本もまた、きな臭さと無縁ではない。今後、一族の力が及ばない事態が、起きるかもしれない。現代に警鐘を鳴らしていると、解釈できないこともない。
ある意味、作家恩田陸の本質を表している本作だが、続編は出るのだろうか。続編が出るなら、プロローグとしては悪くないが、これで終わりだったら、あまりにも薄味と言わざるを得まい。『夜の底は柔らかな幻』くらい弾けてもらわないと。これからもやっぱり、気になる作家には違いない。
- 感想投稿日 : 2017年2月20日
- 読了日 : 2017年2月20日
- 本棚登録日 : 2017年2月20日
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