ボトルネック (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2009年9月29日発売)
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2010私的夏の文庫フェア第3弾。

2年前に事故死した恋人を弔うため東尋坊を訪れた嵯峨野リョウ。
ふとしたはずみで崖から転落してしまった彼は、地元金沢市の河畔で目覚める。
事態を訝りながら自宅へ戻ったリョウの前に現れたのは、いるはずのない“姉”嵯峨野サキだった―

という始まりを見せる本作。
2010年「このミス」で作家による投票No.1になっているとか。
しかしこれは…ミステリー?
そもそも「ミステリー」の定義がいまいちわかってないんだが、“世間一般的な”イメージとは少し違うような。

初めて読んだ作家だけど、これからも選択肢に入れるかどうか、微妙だなぁ。
とりあえず、登場人物の掘り下げが浅い気がしてならない。脇役とは言い難いキャラクターであるところのフミカについて、あぁまで描かないとは。
あとは(この作者に限らないけど)会話・セリフがウソ臭い。いくら頭いい設定とは言え、女子高生が「臆断」だの「オプティミスト」だの言うかな。
「物語」という大きなウソをつくのであれば、会話や設定といったところで小さな真実(リアル)を積み重ねないと、結果的に全体がウソ臭くなると思うんだが…

最後にネタバレ。

嵯峨野リョウは、きっと死ぬ。死を選ぶ。
彼はサキの世界へ入り込み、そして気付いた。そこに起きている差異によって世界が“よくなって”いることに。それがサキによって生み出されたものであることに。
自分こそが「システムを停滞させる排除すべき要因=ボトルネック」であると確信し、「もう生きたくない」と願った彼は、自分の世界へ戻される。
世界を横断する通話によってサキが発破をかけたとしても、「恥をかかせるだけなら帰ってこなくていい」という母のメールを見てうっすらと笑う彼は、きっと死ぬ。
と言うより、死ななければならない。死ななければ物語は成立しない。

とても「青春ミステリ」などと形容できない読後感。
舞台は12月の金沢だけど、冬の日本海の空のような雰囲気は夏にもいい。
夏こそ薄っ暗い、死の匂いのする小説を読もう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年8月31日
読了日 : 2013年8月31日
本棚登録日 : 2013年8月31日

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