万葉学者、墓をしまい母を送る (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2022年8月10日発売)
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感想 : 5

たまたま文庫を書店で見つけた。ビニールでパックされていた。立ち読みができない。でも、なんだかちょっとひかれて買って読んだ。これは正解でした。いろいろな思いを共有することができた。僕には生まれたときから祖父母がいなかった。自分の身内の葬式は、妻の祖母が亡くなったときが初めての経験であった。20年ほど前のことである。僕たち(孫夫妻とひ孫2人)が火葬場に到着するのを待ってくれていた。一目見た上で、荼毘に付された。その夜にお通夜があった。いや、順番が逆か。記憶があいまいである。しかし田舎でのこと。お寺でお通夜、翌日の告別式と、受付をしたり、いろいろとお手伝いをしながら過ごした。大勢が集まっていたが、90歳台半ばであったから、皆思い出話に花を咲かされていたと思う。3年前、僕の両親を相次いで亡くした。2人とも89歳であった。母が先であった。3ヶ月ほどの入院、2回の転院、一度は危篤で呼び出され、持ち直しての二度目、朝が早くて、着いたときにはもう息を引き取っていた。一度持ち直したのでもう少し先かと思っていた。葬式については何も相談していなかった。病院に紹介されるまま葬儀社に依頼した。もう、年も年であったし他に声をかけることもなく、家族だけで葬儀をとり行った。湯灌についてはそのとき初めて知った。大変な仕事があるのだと知った。そして、本書で家族が湯灌をすることもあるのだと知った。それはきっと強烈な印象だったのだろう。戒名についても、読経していただくお寺さんについても、もう葬儀屋まかせになってしまった。それほど贅沢にはしなかったつもりだが、それなりの金額にはなった。もっとも、費用はすべて両親が残してくれた貯金でまかなったのだけれど。2週間後、母を追うようにして父も逝った。父は3年近く入院していた。その病院では老人を長期に受け入れていたので、同じところに安心してあずけていられた。月に2度ほどは見舞いに行っていたが、大きな負担であったとは言えない。母のときでまあまあ満足はしていたので、父も同じ葬儀社に頼んだ。今度はもう少し自由にした。戒名も読経もなしにした。父が希望していたヴィヴァルディの「四季」を繰り返し流した。そして、父が晩年趣味でこしらえていた五重塔などの模型を写真にとりスライドにして皆に見てもらった。子・孫・ひ孫総勢15名ほどで良い会になったと思う。火葬場で骨を拾って持ち帰ったり、今度はその骨を墓の下に入れてもらったり、何もかも初めてのことであった。これでやっと僕は大人の仲間入りができたのかな、と思えた。それから2回、姉の家族と僕の家族が集まっている。そして、1人集まる家族が増えた。また3年後には集まることになるだろう。こんなことでもないとなかなか会う機会もないので、法事がまあまあ楽しみである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 上野誠
感想投稿日 : 2022年9月8日
読了日 : 2022年9月8日
本棚登録日 : 2022年8月31日

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