資本主義とは競争ではない。それらは実は対局にある。競争は疲弊を招くだけで、真に重要なのは独占だ。という逆説的な本だが、説得力がある。
論旨は以下の感じ。
・トルストイは『アンナ・カレーニナ』で「幸福な家族はみな似通っているが、不幸な家族はみなそれぞれに違っている」と書いているが、企業の場合は反対で、幸福な企業はそれぞれ独自の問題を解決することで独占を勝ち取り、不幸な企業は皆同じく競争から抜け出せないでいる。
・競争とは無益なイデオロギーである。
・競争の中では長期的に利益を出し続けるのはその構造上無理だ。壮絶な競争から利益が出ることはない。
・本当に新しいものとは、既存の仕組みを「破壊」することではなく、名の通り新しいということだ。既存企業との対比で語られる会社は新しいとも言えないし、独占企業にはなれないだろう。
・ポートフォリオではなく、べき乗則でひとつのことに集中するべきである。
・といいつつ、差別化というのは他より少なくとも10倍は優れていなければならない。
・小さな市場から始めなければならない。100億ドル市場の1パーセントを狙いに行くのは最悪で、大きな市場は参入余地がないか、誰にでも参入できるがために目標シェアに達することが不可能かのいずれかだ。スタートアップにMBAタイプが少ないのはそのせいで、そこに事業チャンスを見出せないからだ。
・リーンスタートアップについては懐疑的。リーンは手段であって、目的ではない。あくまで計画を持つこと。
・テクノロジーは限界には達していない。(そう思うなら、本屋に並んだ啓発本をなぜ我々は手にとっているのだろう)資源は有限なので、途上国の今後の消費増を考えると。テクノロジーの進化なきグローバリゼーションはあり得ない。
・いかなるビジネスも答えを出すべき7つの質問
1. エンジニアリング
段階的な改善ではなく、ブレークスルーとなる技術を開発できるか
2. タイミング
このビジネスを始めるのに、今が適切か
3. 独占
大きなシェアがとれる小さな市場から始めているか
4. 人材
正しいチーム作りができているか
5. 販売
プロダクトを作るだけでなく、それを届ける方法があるか
6. 永続性
この先10年、20年と生き残れるポジショニングができているか
7. 隠れた真実
他社が気付いていない、独自のチャンスを見つけているか
・「社会的にいいこと」というのは、社会のためになることなのか、それとも単に社会の誰もがいいと見なしていることだろうか?それはありふれたアイデアと同じで、もはやただの常識に過ぎない。本当に社会のためになるのは、これまでとは「違う」ものだ。最良のビジネスは見過ごされがちで、たいていは大勢の人が手放しで称賛するようなものじゃない。誰も解決しようと思わないような問題こそ、いちばん取り組む価値がある。
といった感じだ。つまり、東京でカフェを開くという選択はほとんどの場合間違っているし、ゴールドラッシュの際にやるべきことは金を掘りに行くことではなくて彼らにつるはしやジーンズを独占的に売ることなのだという格言を再認識する。
ただ、生産者側にとって競争は疲弊だけだとしても、価格競争の意味では消費者に利があるのではないかとも思う。この点についてはどうなのだろう。
- 感想投稿日 : 2015年7月27日
- 読了日 : 2015年7月27日
- 本棚登録日 : 2015年7月27日
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