テミスの剣 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋 (2017年3月10日発売)
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本棚登録 : 560
感想 : 67
5

ひさびさの中山七里作品。テーマは「冤罪」。
主役はヒポクラテスシリーズの古手川のボス、渡瀬班長。渡瀬が
まだ駆け出しの刑事だった頃に担当した殺人事件から始まる、あ
まりに長く、そして重い事件の一部始終が描かれている。

自らも関わった冤罪事件に対し、逃げること無く立ち向かって行
く渡瀬の描写は「凄まじい」の一言。「正義」という概念の重さ
に驚嘆し、その不安定さに切なくなる。おそらく、氏の最高傑作
の一つとして残る作品だと思う。

内容に関する詳細の記述は避ける方が賢明。どの部分を説明して
もある種のネタバレになる可能性がある、というのは、ミステリ
ーとしての構成にスキが全く無い、ということ。ただ、重くて暗
いテーマなのにもかかわらず、一気に読める、ということだけは
保証しておきた。

中山七里作品の魅力は、代名詞でもある「どんでん返し」なのは
間違いない。今作もラストは怒濤の展開であり、全く予想出来な
かった人物が真犯人として裁きを受ける。しかし「もしかしたら
本当にあるんじゃないか?」と思わせるくらいの圧倒的なリアリ
ティは、その上を行く大きな魅力。もっとも、そこはいちばん恐
ろしい点でもあるのだけど。

そして、この物語は中山作品のオールスター戦的な要素も多々あ
り。前出の古手川に加え、存命中の静おばあちゃん、名前だけだ
が犬養刑事など、他作品の主要キャラクターがチョコチョコと登
場する。日常的に中山作品を読んでいる人ならニヤッと出来るこ
と請け合い。そのへんを楽しみに読むのもいいかもしれない。

やっぱりいいなぁ、中山七里。
ミステリーとはこうあるべき、の見本のような作品。万人にオス
スメ!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー
感想投稿日 : 2017年4月17日
読了日 : 2017年4月13日
本棚登録日 : 2017年4月17日

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