ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)

著者 :
  • 東洋経済新報社 (2010年4月23日発売)
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企業がその存続のために求められているものとして、第一に利潤を追求することがあげられます。そのためには自分たちの製品やサービスを売らなければならず、競合製品との差別化を図ることになりますが、そこで出てくるのが「戦略」ということになります。
著者は経営学者であり、経営の現場に生きる人ではありませんが、学者としての経営理論が実地で生きるものではないと述べています。それはある企業の経営戦略が成功していても、同じ方法を理論化してどこでも真似できるものにはできない、ということを「知っている」からでしょう。
なぜ真似できないか、という理由として、本書タイトルともなっている「ストーリーとして」競争戦略ができているから、ということがあげられます。逆の視点から見ると、理論化された競争戦略はそのエッセンスだけを抜き出した静止画のようなもので、全ての戦略が1つのゴールに向けて動き出すための、つながりや時間軸を欠いたものとなってしまうからです。

競争戦略として、マブチモーター、アマゾン、ガリバーインターナショナルなどの成功事例と、いくつかの失敗事例が取り上げられています。成功事例に共通しているのは、戦略のコアが明確だったことと、ある部分だけ取り上げてみると、あえて不利になることをやっているように見える(実際には戦略のコアを実現するために必要なことをしているだけ)ため、他者が真似しなかったことであると述べられています。
一例を挙げると、マブチモーターの場合、戦略のコアとなるのはコストの削減であり、そのためにモーターの形状を製品似合わせてカスタマイズするのではなく、標準化した形状のモーターを納入して製品をそれに合わせさせていました。このことは業界の非常識であり、誰もが不可能だと考えていたのですが、品質とコストを両立させたことで受け入れられるようになってきました。その結果、多くの製品に同じモーターを使うため、モーター製造の稼働率が平準化される、在庫を管理しやすくなるなどのメリットが生じました。

このような「筋のいい」戦略を作るのは、著者いわくセンスの問題ですし、誰もが一朝一夕に習得できるものではないのだろうと思います。多くの事例を見て、自分で失敗を繰り返して、次第にセンスが磨かれていくものでしょう。また、実際にはたまたま戦略が当たっただけで、後付けでストーリーを作ったというものもあるのかもしれません。
それでもなお、成功した事例から、多くのことを学ぶ必要があります。美術品の真贋を見分けたり、審美眼を養ったりするのには、本物に多く触れる必要があるのと同様、多くの事例をケーススタディとして学ぶことで、どういう戦略がうまくいかないか、は見えてくるでしょう。必ず成功する方法はないとしても、成功の確率を高める方法として、本書を入り口に企業戦略を考えていくのは有効だと感じました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2012年7月21日
読了日 : 2012年7月10日
本棚登録日 : 2012年7月21日

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