ピカレスク 太宰治伝 (文春文庫 い 17-13)

著者 :
  • 文藝春秋 (2007年3月9日発売)
3.57
  • (10)
  • (30)
  • (31)
  • (3)
  • (2)
本棚登録 : 190
感想 : 28
5

膨大な資料を当たった労作だと思います。
分厚いけれど、興味深く読めました。

『太宰治伝』というタイトルですが、太宰治と井伏鱒二のダブル主人公と思ってよいでしょう。

ISBNコードの分類ではドキュメンタリーやノンフィクションではなく、エッセイの扱いですね。
著者の主観が加えられていることを念頭に読んだ方がいいと思います。

太宰の遺書にある「井伏さんは悪人です」の言葉の意味とは…?

3分の2ほどまで読み進むと、仕送りを止められそうになると同情を引くために自殺未遂をはかり実家の長兄を困らせ、女を持て余すと心中(狂言を含む)をはかり、借金は返さない、いい歳してすぐにメソメソ泣く、薬中、同情してもらいたい病、嘘つきでプライドばかり高い、芥川賞を取ることに異様に固執…
といった、太宰像が浮かび上がる。
ここで「生まれて、すみません」と言われると、「そうですねぇ~」と返してしまいそうである。

そして、太宰の兄が仕向けたお目付け人たちから、無理やり太宰の保護責任者を押し付けられ、関わりたくないのに小心者ゆえ断れず、女子供抱えて必死に雑文を書く一方で、太宰に振り回されて大迷惑を被る井伏に「真面目な小心者なのにかわいそう」と、同情してしまうのである。
では、井伏は善人なのか?
いや、彼はとんでもない秘密を隠ぺいしている。

著者は、二人とも、タイプの違う(あるいは真逆、もしくは裏返し?)悪人であると記している。
面白かった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年5月5日
読了日 : 2015年5月5日
本棚登録日 : 2015年5月5日

みんなの感想をみる

ツイートする