企業参謀―戦略的思考とはなにか

著者 :
  • プレジデント社 (1999年10月29日発売)
3.72
  • (109)
  • (130)
  • (184)
  • (20)
  • (3)
本棚登録 : 2609
感想 : 128
5

大前研一氏と本書についてその高名をしらないものは、本書の題名「企業参謀」を見たときに、まるで小説のような題名であることから、一見自伝的書籍かと思うかもしれない。
しかし、「企業参謀」の題名の横に「戦略的思考法とはなにか」と書かれているように、これは戦略的思考というものはどういったものであるのか、もしくはどのように思考する
ことが戦略家であるのかという、くしくも洋書で翻訳された題名「Mind of the Strategist」に帰結される内容である。

本書は、発行以来、数多くの言語に翻訳され著名なビジネススクールにおいても教科書的に機能している戦略的思考に関する書籍で、内容についてはあえて発行当時1975年当時
から変更を加えていない。さらに大前氏は、本書を著作したときにおいて未だ30代前半であったということであるので、如何にその戦略家たらしめるゆえんやマッキンゼーという
組織の強烈なまでの成長速度(当然、大前氏はその組織で十分に機能していたわけである)を促す環境であったかが伺い知れる。

本書は戦略的思考法について、ビジネスにおける想定や実例、または国政への利用法と多岐にわたる為、書評として網羅的なものを作成することが非常に難しい。
また、内容が安易ではないので、Amazonの書評にも多くあるように数回は読み込む必要がある。既に5回目という人物もざらにいる。

1回目を読了した上で、直観的に影響を感じざるを得ない個所をいくつか紹介して初回の書評としたい。

まず基本的なことではあるが、戦略的な思考を行うに至っては精緻で詳細な分析をもってそれのベースとしなければならないということである。他者に説明する段になって、それを
気付き考え直すようでは戦略的思考法ができていないという訳である。
また、戦略上仮説や仮定で設定した数値は、ある程度推定であっても現実の数値に近いものとする為には、その仮定とした数値をある一方向から算出するほかにもう一方から算出
することで、その仮定した数値の蓋然性を向上させ大枠の事実と近似したものを取得する必要があるという。これには、思考と分析の”しつこさ”が必要で、おそらくこれをことある
ごとに実践しているのとしていないのとでは、要求水準に対する結果つまりはアウトプットの質が異なるのであろう。
こういった、実際にトップコンサルタントがどのような過程や結果をもって、サービスとしているのかを感じることが出来る事は大きいし、実務上求められる要件以上をアウトプット
しようとする実務担当者には非常に有益なものであろう。
これを端的に表現しているのが、著者自身がケーススタディを自ら構想し解決策を自ら提案する部分で、そのストイックさもさることながら、実例に基づく思考経路を理解するには
もってこいである。このケーススタディを聞いただけで、本書への興味関心がわくと思うのでさわりだけ紹介すると、ニュージーランド沖に日本イカ船団が大量にイカがとれるという
ことで大挙したものの時間経過とともに乱獲が原因でイカが捕れなくなった。さらにはニュージーランド側から日本政府水産省へ、漁船行動に対するクレームがあがっているという。
この解決策とその導き方を戦略的な思考法で、考察しようというものである。

こういった、ケース毎に解を模索していく中で、2,3度著者が注意喚起している事にフレームワークに関する事柄がある。
課題解決や事業戦略に用いられるフレームワークは、他社の戦略で用いられていることを見た経験や実際に利用してみて間が抜けたものになった経験というのはビジネスに携わる場で
は少なからずあると思われる。課題解決法には、あるパッケージ化された方法論というのは存在せず、基本的にはオーダーメイドで思考、分析されるものであることを著者は強調して
いる。
BCGの考案した、PPMについてもより詳細に説明し、如何に精緻で"しつこい"分析の上に利用する事が望ましいのかGEとBCGの採用事例から紹介されている。また著者(マッキンゼー)
はこのPPMを2×2の4つの分類ではなく3×3の9つの分類にわけ、ポジショニングに対してそれぞれの戦略を当てはめるということをさらに製品系列毎に実践するような多大な労力を伴う
うえに非常に精緻な分析がなされているものを紹介している。
さらに、KFS(Key factor for Success:成功のカギ)というのが、新規参入や事業には存在し、多角的な視点がなくKFSを分析せずに安易な考察でもって失敗に陥った多角化における
新規事業例をタービンメーカーの事例等を用いて紹介し、KFSをつかむことが大きく事業の成り行きを左右する事を知ることができる。

最後に、本書を読んでいて非常に気付きが多い事がわかるのであるが、これをもって思考法の練習が開始されるのであって膝を叩いて終わるのではないことは言うまでもなく、それを
考えると数回読み込んで実践に移していかなければ身に付かない内容であるのは明確である。

よく大前研一氏自身がかつてメディアへの露出も多く、思想が合わないので本書を手に取ることを躊躇される方もおられるかもしれない。
実際に、大阪市長である大阪維新の会が参考にした、大前研一の平成維新の会の根源的な思想である小さな政府を論じる片鱗が本書においても見え隠れする。
企業においても、戦略的思考に基づく戦略立案集団は特に実践的で有能な集団にのみ携わらせるべきであるといった個所は、特にそうなのかもしれない。
しかしながら、大前氏は政治的な思想は別として戦略立案の側面ではプロフェッショナルであることに違いはない。
そのプロフェッショナルに触れることは、間違いなく自信を磨き上げることの手助けとなるであろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: Business
感想投稿日 : 2012年4月17日
読了日 : 2012年3月11日
本棚登録日 : 2012年3月11日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする